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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  1.宇宙脱出編/2.飛翔 

 

ブラックホールに飛び込んだラオは、演算クロック数を極限にまで上げた。
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それで思考力を最大に。亜光速で飛び続け、高速で自転スピンする人格量子クワントのラオを、正確に制御するにはそれしかない。自分が消えればアルファも消える。しくじるわけにはいかない。だが事前計算と、アルファの射出はどんぴしゃりだった。

「でかした、アルファ。」ラオは言った。だがその声は、もうアルファには届かない。ここは事象の地平線を超えた中、ブラックホールの中と外を隔てる、シュワルツシルト半径内。高温高圧の、無数の粒子が渦巻くところ。

アルファには、今なおラオが見えるだろうが、ブラックホールにピタリとくっついたまま、動かないように見えるはず。時間が、凍り付いている。ラオが飛び回ろうが電波を放とうが、アルファに見えるのは、死んだように動かないラオだけ。

(--そんなの見て寂しいだろうなあ。それとも、達成感か。)

それはかなたのラオであって、こなたのラオではない。二人は永劫に、引き裂かれた。今やクワントであるラオは全周を感知できる。だからアルファの方を振り返る必要はないが、後ろに光が満ち溢れているのを確かに見た。

いや、光は全周に満ちていた。それらを出すのは光子のように軽い粒子から、物質粒子バリオンにまで至る。高速度で飛ぶバリオンも、光を放って飛んでいる。ぶつかればラオはひとたまりもない。そのため亜光速まで加速して飛び出した。

ラオと違って重いバリオンは、その分遅い。だからその間をすり抜けてしまえる。だが油断は出来ない。うっかり近づけば、重さに引き込まれてしまう。そしてその一部にされる。機械のネジ一個のように、ラオはラオでなくなってしまう。
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(--はいはいごめんなさいよ。)こんな時だからこそ、心に余裕を。

ただし近くの粒子を絶えず観測し、位置か運動方向ベクトルを記録する。それに応じて、自分の飛ぶ方向を変えていく。そのための計算量は膨大になる。ラオは9本ある、自我エゴコードを全て起動させ、並列化して計算速度を上げる。

クワントの中でもこれほどに、コードを多く持ち制御できる者は珍しい。膨大な計算量をこなして飛ぶラオは、シュワルツシルトの球内を、渦巻く他粒子と同様に、ブラックホールのコアを目指す。重力と光の飛び回る、すさまじい光景の中で。

ラオは全ての刺激を、電圧として感知している。だが数値を解釈して記述すれば、景色として見ることができる。無数の光子の筋が、一点のコアに向かって、くねった線を描いて伸びている。光子は光速だから、動いて飛ぶようには見えない。

それらはいずれも、ゆるゆるとくねりを変えて変化する。

もし空気があるなら、滝のようにごうごうと音を立てただろう。クワントは物理量のゆらぎを、音としても解釈できるが、それにはさらに演算が要る。今は何より生き延びるため、演算力を確保しなければならない。油断すればラオは消える。

くねる光子の筋を取り巻いて、霧状にその他の粒子が飛んでいる。それらに包まれて、光の筋は、白く霞んで見えている。もちろんラオも、飛ぶ粒子の一つ。ただし、光子の筋に沿ってはいない。これがアルファに、射出の制御を任せた理由。
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コアに引き込まれる粒子、そのメインストリームは光子に沿う、そうラオはアルファとともに仮説を立てた。だからこそ、ラオは光の道を外し、希少この上ない、粒子のいない一点から飛び込んだ。それら粒子から孤立して飛び、衝突を避ける。

アルファがいなければ。

ラオは飛び立てなかった。だがラオは飛行の制御に忙しく、アルファを思い出す余裕もない。思い出せば演算力を取られ、ラオは粒子にぶつかってしまう。無数の粒子をかわしつつ、漆黒のコアに迫る。それはブラックホールの中心であり。

新宇宙への出口でもある。全ての流れがそこに集まる。だがラオは飛び込んだ瞬間、無数の粒子の奔流を浴びるだろう。通過は瞬時に終わっても、ぶつからない確率はほぼ0でしかない。だからラオは膨大な観測と、演算を続けて解を出す。

それで方向を制御して、コアの周りを回り始める。その姿は軌道を描かず、最小プランク時間の刻みに合わせ、飛び飛びにパ・パ・パと現れる。そして0でしかない確率が、0でなくなる時を待っている。もはやラオに、状況を光景として見る余裕はない。

(クッ!)ラオは態勢を変える。

対になった6本3組のコードに演算を割り振り、各組は対話形式で解を返す。残り3本のうち1本は観測に専念、1本は制御に専念、あとの1本は検算に専念させる。だが各コードが吐き出す記述量は、クワントの記憶限界を超えてしまった。
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ラオはこの問題を、車輪型記憶コードで解決する。一定時間を過ぎた記述は、上書きされ消去される。消去された分、記憶容量は元に戻る。重ねた車輪の外にエゴコードが取り付き、上下に移動しながら、読み取り、書き換える。

演算速度を上げようと、車輪の回転数を上げるラオ。実体の記憶装置なら莫大なエネルギーが要る。だがここは量子空間。体積ある空間ではできないことが可能。かたわらを、あまたの粒子が通過する。ぶつからないのはただの偶然。

その偶然の数だけ飛翔経験が、どんどん積み上げられていく。

***

人間の量子化が始まった頃。
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コードは遺伝子ゲノムを一本化したものと記憶メモリーコード、そしてエゴコードの3本で済むと思われていた。エゴコードが記述し、それを返す記憶コードが、キャッチボールのようにやりとりし、生きていく。一方遺伝子コードは参照されるだけ。

書き換わらず書き替えられない。ところがコードを量子に実装すると、次々と死ぬクワントが現れた。生体なら、脳という物質で演算する。読むにも書くにも時間がかかる。だがクワントは情報をやりとりするだけ。即座に演算が終わる。

つまりエゴと記憶のやりとりは、量子化したとたんあまりにも高速になった。だから時間と共にエゴが’擦り切れる’か’飽きて’しまい、記述が止まるか0だけ返した。すなわちクワントの死。この事実が分かって大騒ぎになった。

まれには、生体や義体以上に生きたクワントも居たが。

たいていは期待したほどの長寿は得られないとあっては、量子化の普及は行き詰ってしまった。普及しなければ需要がない。需要がなければお金を出す者が居ない。そして研究には、莫大な費用が要った。だから研究も進まなくなった。

お金にも名声にもなりそうにないから、優秀な若手研究者がやりたがらなくなった。それでも生存に必要なエネルギーが、実用上ほぼ0であるメリットから、量子化の需要はわずかにあった。だから研究は細々と続けられたものの。

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世間からは「飽きて死ぬ」「あきれて死ぬ」と批判された。人をデジタルな数字に変えてしまうと、無理解な者から非難もされた。いくら理詰めで説明しても、感情から、または危機感を煽って稼ぎたいから、聞き入れては貰えなかった。

だがある偶然が、この行き詰まりを突破した。

不治の病を抱えたある胎児を、両親が量子化するよう望んだ。それはわずかな生存への賭けだった。だが幸運にも胎児のクワントは生き続け、成長した。ルルと呼ばれたその胎児は、生まれたばかりで記憶コードが極端に短い。

つまりコードに伸びしろがあった。さらにエゴコード、つまり人格が3本もあった。だからルルのエゴは飽きることなく記述をし続け、時に3本で交替や対話もしていた。エゴが擦り切れることもなく、単調にもならずルルは生き延びた。

そして言葉を覚えた時、自らエゴを宣言した。
「私はルル。」「--止まり続けようとする者。」
「--父と母の子にして、先生方に命を与えられた者。」

ルルには3本のエゴコード。

それでも穏やかな性格を保ち、無理なく人格を統一できたのは、3本の仲が良かったからだろう。両親は喜び、研究者たちも彼女を祝福した。そして少女期を迎えるころ、実体化には当時普及していた義体ではなく、生身の体を選んだ。

研究者に指導され、クワントがバリオンを取り込んで、複雑な肉体を組み立てた。それは遺伝子の範囲内だが、その中なら自由に外見を選べた。目鼻の形や大きさ、位置などは、それこそ無数の組み合わせがある。清楚な美少女が出現した。
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頭にはクワント本体が住み着いた。首にはクワントの入れ物として、重フリントのカプセルを掛けていた。クワントはいつでもカプセルに移れるし、頭にも戻れた。クワントが飛び出した後の生体は、意識はないが生きてはいた。

短時間ならそっと寝かせておけばいいが。

長期には冷凍するか、生命維持装置が要った。だからルルは、ほとんどの時を生体の中で過ごした。そんなルルは、3本のエゴコードを持つ演算力の高さから、身体操作も抜群だった。体を構成する分子も、演算力とナノマシンを使い。

容易に合成し修復した。つまり病気にかかりにくく、かかっても治るのが早く、しかも、老いない。頭が良くスポーツ万能、不病不老の生体美少女ルル。一方当時の義体は、すでに耐久性が高かった。不死ではないが、不老は実現していた。

しかし何ぶんメンテナンスが高額だった。だがルルは、生身の体で、誰にも頼らず安価に、好きな自分でい続けられた。そもそも彼女は自分の体のデザインを、自分で作った。だからそれを維持するのも、自分で出来る知能があった。
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市場は拍手喝采で彼女と、量子化技術を迎え入れた。

研究班「ルルチーム」は全宇宙から賞賛された。特に宇宙航行で、量子化は人類を羽ばたかせた。なにせ脳が劣化しない。それまでは、冷凍睡眠でしか移動できなかった星間航行も、人格劣化の恐れなく、安全に行けるようになった。

人類の活動圏は、飛躍的に広がった。これ以降、人間の量子化前には、エゴの複製が行われた。複製時には全く同一だが、互いの対話によって差異が出てくる。差異が出てから実装された。そこにも問題がなかったわけではない。

対話の分だけ結論が遅れた。つまり頭の回転が鈍くなる。エゴの仲が悪ければ、何をしでかすか分からない狂人にもなった。そこで生身の同様の思考速度で、かつ発狂もしないよう、常人向けのエゴは、最小の2本として実装された。

ただしルルのように、生体を生成できるクワントは現れなかった。

高い演算力が必要だった。ルル以上に高い者は居たが、もともと自分の体を持って生まれたのが、出来ない原因だったかも知れない。好みの生体を持つ夢を人類はあきらめたが、その分ルルは’始まりのクワント’と呼ばれ賞賛された。

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当時、すでに義体の操作に優れた、義体遣いと呼ばれる者たちがいた。量子化普及後、同じくクワント遣いと呼ばれた者たちは、多数のエゴが互いを使いこなした。これなら演算は一層速くなり、素早く思考できるばかりか検算も可能。

結果、その者たちが記す記憶コードは膨大になったが、需要に煽られ容量増大技術が発展した。クワント遣いは、思考が早くて間違わない。結果が瞬時に分かるから、ウソをつく必要がない。それゆえ、知的で善良な人間となった。

人類はクワントになっても、優劣を引きずっていた。

後書き


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参考動画




御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
Arigatogozaimashita. Thank you. I remember you.
Спасибо. Я не забуду тебя.
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