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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  1.宇宙脱出編/3.邂逅 

 

ブラックホールのコアを周回するラオ。
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クワントの飛行は、周囲の観測と、それに応じた自分の変化が原動力。坂の上の車は、ブレーキがかかっているから止まっているが、緩めてしまえば動き出す。それと同じ。だが亜光速ほどの速度で、望みの方向へ行きたいとなれば。

とてつもない演算力を必要とする。ラオはそれを持っていたが、実践した事がなかった。だからアルファに射出してもらった。しかし今は超高温高圧で、周囲がほかの粒子だらけのシュワルツシルト半径内にいる。否応なしに経験が積まれる。

運が良かった、としか言いようがない。いきなりの実践で、重粒子に消し溶かされずに生き残った。クワントには元々質量がない。今やラオは、光速で飛ぶ能力さえ獲得した。その力でコアに近付き、しかも他の粒子をかわし続けている。

螺旋状に筋を引き、コアに引き込まれるあまたの粒子。

それらを観測するうち、ラオは一つの見解に達する。
(やはりな。)
コアは点だとされてきた。通過する粒子は点もあるが、多くは体積を持っている。

それが潰されることまでは周知の予想だったが、では潰されてどうなるのか? 点は点を通過できない。マクロな3次元世界ではそうなる。同じ直径なら、球は決して穴を通れない。だが眼前のコアを、粒子はやすやすと通り抜けている。

これは一体どういうことか? 潰されるのではない。同じ時刻、同じ座標に、複数の存在が同時に存在する。つまり折りたたまれて、同時にそこにある。ならばコアは点ですらない。0次元ではなく、マイナスの次元であるようだ。
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でなければ、存在を折りたたむことはできない。

見ればコアよりずいぶん大きな粒子が、コアに近づいた途端、スッと消えている。折りたたまれ、’すり抜け’ている。ラオは自らを量子化することで、すでに3次元世界では考えられない、高温高圧のシュワルツシルト半径内を耐えている。

だが自我・記憶・遺伝子といった構造を持つ以上、もし物質なら点ではありえない。それでも点として振る舞えるのは、情報の存在で体積がないから。
(案外、通り抜けるのは簡単かもしれんな。)

それでも不安はある。この景色も、そう見えているだけかもしれないから。だが後戻りはできない。飛び込むしかない。避けねばならないのはただ一つ、飛び込む一瞬前まで、他の粒子と接触しないこと。通り抜けてしまえば新宇宙。

どこにでも逃げ場はあるだろうが、それまでは。

しかしその心配はどうやら無用のように見える。コアに近づくにつれ、大きく重いバリオンは折りたたまれ、一点の情報へと変換されている。だがそれがコア通過の後、またバリオンへと戻されるのか? うむ、と再びラオはためらった。

自分も情報だが構造が複雑。コアで0ばかりの白紙にされてしまうかも。元に戻れるのだろうか。(干物の魚も戻したら、泳ぐためしはあるのかな。)
ラオは古い言葉で自分を笑った。

「そうですわ、先生。あるようにしてあり、なるようにしてなる。」
アルファの言葉が聞こえたような気がした。ラオは限界まで、頭脳を回転させている。自分を笑い、声が聞こえた分だけ、演算能力が消費されて。

フラリと意識を失う。ラオは、コアに引き込まれた。

***

もはや客観時間では記述できない。つまりここには意味ある時間がない。
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主観時間で記述しようにも、ラオの意識はない。気が付けば、やはり光の満ち溢れた空間にいた。観測してみると、光は全周から一様に射しているようだ。だがところどころに揺らぎがある。まるで濃い霧の中にいるように。

見えるのはただ、空間と光子のみ。ラオは自分が、ひどく異質なように思われた。
(異質? ということは通り抜けたのか!)
やっとラオの意識が戻った。自分だけが、光子でない。

通過したコアは、もうどこにあるかわからない。とりあえず光速など、この新宇宙の物理定数を計ろうとして、ラオはやめる。計る座標原点がどこにもない。自分をそれにしようとも、自分の速度がわからない。多分光速は一定だろうけど。

ここには自分しかいない。

だから「ヨーイドン!」ができない。ピストルを撃つ者、ストップウォッチを押す者、どちらか1つしかいない。つまりここには距離がない。客観時間もない。原子の崩壊や遷移状態で計測するにも、まわりには崩壊しない光子しか見えない。

自他があってはじめて世界はある。ラオは改めて思い知らされる。計測できるのは、まわりのエネルギーの高さだけ。これだけはラオが「感じる」だけで記述できる。そうしたVボルト量を記録しようとするラオ。

ここで車輪型だった記憶コードから、取り付いていたエゴコードを放つ。放って二つを除いて休ませる。当直の考える自分と、観測する自分と。やがて。
(ん? 光子以外の粒子もできたな。だが、原子は出来ていない。)
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場に舞い散る光子の霧に遮ぎられ、何の粒子かは分からない。

(どうやら、ずいぶん若い宇宙らしい。)
ラオは思考のクロック数を落とすことにする。ミルクの中に漂うような現状で、できることは何も思いつかない。選ぶブラックホールを間違えたのか?

この真っ白な牢獄で、永遠に過ごすのだろうか? そうかもしれないがそうでもない。と、ラオの物理知識は言った。宇宙が進化すれば、やがて時間も物質も出来るはず。だがいつどのように、そのきっかけが訪れるのだろうか。

それまでは待つしかない。休んでいるしかないだろう。だから当直と観測も、1つのエゴだけでこなすことにする。当直時間は…まあ決められないが、飽きたら交替、ということで。他のエゴは極端にまでクロック数を下げた。

ZZZZZZZZ........。

***

何エゴ目の当直なのだろう。

「全員、起床~ッ!!」
当直は茶目っ気のあるエゴのようだ。ご丁寧にもラッパのような警報音まで響かせる。客観的にそれは「音」ではないが。

「どんなアナクロだ。」
それぞれのエゴは苦笑しつつ、当直の決めた配置につく。見れば宇宙は晴れ上がっていく。もやの所々が澄んでいるからには、原子が作られたようだ。

光子は常に光っている。光を発しない場合があるのは、真空か、原子だけ。もやの澄んだ領域は徐々に広がり、やがて最後のもやが消滅する。闇が拡がっていく。原子の発するかすかな放射線を残し、見えるものは何もなくなる。

(おや?)

ラオは消えたもやのあった地点に目をやる。漆黒の闇に、何かが、飛んでいる。
(もしかすると…クワント?!)
彼我の軌跡はずいぶん違う。時とともに、永遠の彼方に去ってしまう。
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時!! ラオは改めて戦慄する。
(今、時と言ったか僕。)
時に意味が出来たようだ。

とりあえず近づいてみることにする。直線運動する彼我の軌道を見れば、どうやら空間は平らに近い。つまり平行線は交わらず、三角形の角度合計は180度。つまりどこまでも広がって冷える宇宙。だが一人でそう見ているだけ、かも知れない。

「こんにちは。そちらの方。こんにちは。」

ラオは言葉をかけた。だがその反応はない。
「--私はラオと申します。お声をください。おーい。」
それでも反応は帰ってこない。さらにラオはそのクワントに触れ、呼びかけた。

やはり返事はない。せっかくコアを通過したのに、0ばかりの白紙になって、自我が崩壊してしまったのか! ラオは哀れに思った。いやそうではない、話し相手候補を失った自分は。寂しいのだ、と思い至る。だがラオに出来ることは何もない。

ただ相手に軌道を合わせ、見守りながら飛ぶことにする。エゴも当直を残し、あとは休ませると相談が決まる。だがエゴたちは興奮しているのだろう、寝る、とは言えない程度に低いクロック数と、外界とのリンクを保ち、休みに入った。

(頼む、起きてくれ!)

***

もし客観時間があったのなら、一億年近く過ぎた頃だろうか。

「これは申し訳ない、ラオ先生。私はボドと申します。はじめまして。」
突然、反応があった。
「はじめまして、ボド先生! お会いできてうれしいです。」
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待機中のラオのエゴが一斉に覚醒し、一体化した。
「お待たせしてしまいました。クロック数をほぼ0にしていたものですから。」
「いえ、事情もおありでしょうから。でも、そんなことができるものですか?」

ラオもクロック数を操れるが、そこまで低くしたことはない。≒0というのは死んでいるに等しく、二度と目覚めないのではと恐ろしかった。
「ええ。ラオ先生はいつ量子化なさいました?」

「元宇宙から脱出する、1億年ほど前です。」

「そうでしたか。私はあちらの宇宙では、量子のまま過ごしました。その前の宇宙では…。」
「お待ちくださいボド先生。では初めての宇宙転移ではないのですね?」

「その通りです。私はもう、自分の客観年齢すら覚えていません。いくつもの宇宙を通り抜けてきました。」
ラオは驚愕した。これでも自分は技術者として物理学者として。

第一級だと自認していたのだが。上には上があって限度がない。
「私は大変な先生のお目にかかった幸運者のようです。」とラオ。
「そう言って頂ける私こそ幸運者です。」とボドは返す。

「--お聞きになりたいことがあれば、なんでもどうぞ。そしてお教え下さい。」
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教えるとは教わること。教わるとは教えること。アルファとの長い日々で、そのことわりをラオもまた知っている。そうだ、この新宇宙でアルファの妹たちと、教え教えられる生活を始めよう。それがアルファの願いだった。

「ありがとうございます。まずは物理定数の観測を、お願いしたいのですが。」
「お安いご用です。さあ、始めましょう。」
二つのクワント間で、情報のやり取りが始まる。

光速、長さ、質量、時間などが、記述できるようになっていった。今まで何が何だか分からなかったこの新宇宙が、ありありとラオに認識される。こうして人に知られなければ、宇宙は本当に’ある’のだろうか? それともこれはラオの幻想?

(らちもない。)ラオは思うのをやめた。

後書き


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参考動画




御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
Arigatogozaimashita. Thank you. I remember you.
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