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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  1.宇宙脱出編/6.爆撃 

 

「私は、アルファー。」AIクワントは名乗り、エゴの第一定義を行った。
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続けて、第二、第三定義を行う。
「--ラオ先生の生徒にして、助手。」
「--止まろうとする者。」

ラオが起動したパオペエは、重フリントクリスタルを生成した。クワントを保護する入れ物。操縦して自由に飛ぶことも出来る。アルファーのクワントは、出来上がったクリスタルにスッと収まり、’КВАНТクワント-αaアルファー’と名を刻んだ。

「アルファー、ボド先生に挨拶を。」とラオ。
「はい。初めまして、ボド先生。アルファーとお呼び下さい。」
「あなたは…女性なのですか?」やや驚いているボド。

「? …はい、ボド先生。何かご懸念でも?」

「いや、何でもありません。作業を急ぎましょう。」「かしこまりました。」
「アルファー。」とラオ。「はい、先生。」
「ミッションの概要だ。頼むよ。」ラオが額から、記録量子を飛ばす。

「かしこまりました、先生。」アルファーは量子を取り込んだ。
ブフォン、と空気があるなら音がしたろう。アルファーのクリスタルが宙に浮かんで発光した。わずかに震えている。それが収まると。

小惑星から飛び出し、高度を取って激しくスピンを始めた。全天を掃くように観測する。その結果をアルファーは、ボドに向けて、「01101100011010101…」のバイナリ波で放った。劣化せず正確、だが途切れると意味をなさない信号。
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ラオは小惑星発射後の、脱出カプセルを生成している。

ボドのエンジンも完成に近づいたようだ。制御装置に何本かの触手で触れ、管制手順シーケンスを編んでいる。
「どうやら間に合いそうですね、ボド先生。」

「ええ。優秀な助手に助けられました。」
アルファーの発するバイナリ波を受け取るにつれ、ボドの編むシーケンスの精度が高まっていく。編んだシーケンスは、逆にアルファーにも返してやる。

それに従いアルファーは、観測すべき対象を絞り込む。こうして、アルファーが送る情報の精度もまた、上がる。高速度で対話を続けるボドとアルファー。シーケンスは完成寸前。その時。対話していた二人は突然、同時に「あ」と声を挙げる。

「これでは…。」「どれかが。」

「どうしましたボド先生。」とラオ。
「どうやっても、ハビタブルソーンのいずれかの惑星が破砕されます。」「え?!」
「間違いありません、先生。」とアルファーも言った。

「--検算しましたがボド先生の仰るとおりです。」「そんな…。」
それぞれ運動する天体は、互いに影響し合っている。そして複雑な運動をする。その未来予測は、天体の数が一個増えるごとに、必要演算量が跳ね上がる。

いわゆる多体問題。理論上、その正確な数値は出せない。だが運動体をグループ化し概数だけでも出そうと、アルファーは必死に計算している。意志があるから、計算法を考え出す。その激務に耐えているアルファーは、間違いなく優秀なAI。
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それはシーケンスを編みながらそれを同時にこなすボドも同様。

極めて優れた演算力を持つ。その二人の予測が一致したからには、それは必ず起こると言っていい。
「どうしましょうボド先生。」とラオ。

命の選択トリアージ、しかありません。」とボド。
「アルファー!」とラオ。「はい、先生。」
「第二~五惑星上に生命のいる確率は?」

「お待ち下さい…出ました。」とアルファー。
「--生命の存在そのものは検知できません。」
「うん。」ひとまず安堵あんどするラオ。

「ですがその他の情報によれば」とアルファー。

「--第三惑星をピークに確率76%。第二惑星はやや下がり、第五惑星に向かってなだらかな傾斜。端点で27%です。」
「第五で27%か…。」安堵が吹き飛ぶ。

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「いると思った方がいいでしょう。」ボドが付け加えた。
つらい決断になる。しかも迷っている時間はない。そこへアルファーの悲痛な声が覆い被さる。

「先生! 別の飛翔体を検知。数は複数! ハビタブルゾーンに向かっています。」「なんてことだ!」「アルファーさん、数は?」
「お待ち下さい…10から100の間。うち18以下は、内惑星を破砕できます!」

「とりあえずこの小惑星を打ち出しましょう。」とボド。

「はい。…アルファー!」「はい先生。」
「シーケンスを実装してくれ。犠牲は…第五。」ボドもうなづく。
「かしこまりました。」とアルファー。

ラオはボドに言う。「先生はカプセルに乗って下さい。」「?」
「次の作戦を立てて下さい。私はその間、機器を点検します。」
ラオは漆黒の闇を睨んで言う。「いくぞアルファー!」「はい先生!」

(--凍結されていたアルファは、アルファーに、なる。)
感じること。動くこと。こうしてアルファーはアルファと、別人格になる。教えて教わる日々の中で、自分のエゴを獲得していく。
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ラオはエンジンに点火した。加速のつき始めた小惑星が動く。

今は見当違いの方向に見えるが、それはメテオの未来位置でもある。エンジンやその他の機関に取り付いて、最終チェックを続けるラオ。その後ろをアルファーが付き従う。さらにその後ろにはカプセルが続く。

「アルファー、カプセルを制御して。少しでもボド先生の演算を助けるんだ。」
「はい先生。」
三人がいるのは惑星帯の外縁。

巨大な氷惑星を傍らに見て、太陽系内側に進んでいる。その氷惑星にすでに取り込まれたのだろう、周囲に岩石は極端に少ない。その景色を眺めつつ、ボドは瞑想めいそうしていた。クロック数は最大に上げている。

最大100のメテオを逸らせるか、あるいは砕かねば。その最適解は何か。

それを考えるクロック数の激速に、ほとんど動かない氷惑星。それを見て、ある結論にボドは達した。
「ラオ先生、アルファーさん。」「「はい。」」

「小惑星を手放したら、手近な氷片に向かって下さい。」
「「わかりました。」」アルファーがカプセルを、小惑星すれすれに付ける。
全てのチェックを終えたラオが、カプセルに乗る。

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手放された小惑星は速度を上げ、エンジンを灯して離れていく。アルファーは変わらずカプセルの前を進み、氷の小惑星に誘導している。
「どうなさるのです?」カプセルに乗り込んだラオが訊いた。

「プロトンを射出しましょう。実体弾ですが、速度を亜光速に上げられます。」

「あ、速度エネルギー効果で、弾の粒が小さくて済みますね。」
「その通りです。ただし、プロトンは氷から取るとしても…。」
「撃ち出すマシンの材料が要りますね。私の義体を使って下さい。」

「…ありがとうございます。ただ、先生の義体だけでは足りないようです。」
「どうするのです?」
「私の義体も使います。必要度の低い部位から解体して。」

そこへアルファーが報告する。「着きましたわ、先生方。」
「ありがとう、アルファーさん。それではラオ先生、お願いします。」
「はい。それっ!」

頭部の中にいたクワントが、額をすり抜けて外に出る。

ラオは素っ裸に戻ったが、義体の頭には傷一つ付いていない。ただし義体はぐったりと活動を止めた。ボドも義体を前にして、両手を合わせてかがみ、動かなくなった。歌うようにコマンドを紡ぐのが、クワントに戻ったラオにも聞こえる。

ラオの義体が発光し、形を失う。互いにまとわりつく光のかたまりになった。ボドはその一部をすくい取り、カプセルを開けて氷体に降りる。その表面に光のまとわりをそっと置いた。見る見るうちに氷が溶け、プロトンが取り出される。

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溶けた領域が広がっていく。やがて、プロトンの混合球になるのだろう。
「アルファーさん。」「はい。」
「観測を続けて下さい。それと、ラオ先生の補助を。」「かしこまりました。」

「ラオ先生。」呼びかけたボドは傍らの、クワントだけのラオに依頼する。

「--設計図はこの通りです。管制シーケンスを編んで下さい。」
「わかりました。」記録量子を受け取ったラオが応えた。
「--アルファー、呼ぶまで観測に専念してくれ。」「はい先生。」

ボドはラオの義体だった、光るまとわりの残りを抱え込む。カプセルの外殻上に上がり、まとわりを外殻に置く。また両手を合わせて歌い始める。まとわりが変化し、レールガンを形成する。ボドはそれをリアクターに接続する。

レールガンは、言わば磁力で飛ばすパチンコ。電力があれば作動する。その電力を担うリアクターは、カプセルが小さいので核分裂炉しか置けない。ただし一度作動すれば、レールガンを動かすには十分の能力がある。

カプセルはプロトン球に沈み、加速リングとレールガンだけが外に出ている。

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「試射。」
第一発のプロトンが打ち出された。順調に飛び出したプロトンを見送って、ボドは自らの両腕を義体から外した。にょろにょろと触手が伸び、合掌する。

両腕が形を失って光るまとわりになり、さらに加速ユニットへと変化する。それを触手がレールガンに取り付ける。ボドは順番に自らの義体を部品化し、クリスタルと触手だけになった。それら部品はリング状に、プロトン球に取り付いた。

生身では思いもよらぬクワントの能力。ものもエネルギーも好きに操り、望みの形を作り出す。だが体を溶かしたり分解したり。自分をちぎってものを作るとは。不老不死もさることながら。人間はクワント化してバケモノになったのだろうか。

「アルファー、シミュレーションを。」とラオ。「はい先生。」

ラオからシーケンスを受け取るアルファー。加速リングに沿って回り始める。
「大丈夫です、いや、完璧です!」とアルファー。
ボドが触手をくねらせてそれに応えた。ラオはほほえみの情報を放つ。

「念のため三人ともカプセルに入りましょう。」とボド。「「はい。」」
中に入った三人。触手だけになったボドが管制盤に取り付く。
「実射第一弾、発射。」

カプセルが反動でわずかに揺れる。プロトンが星々のきらめきの中に飛び去った。その光は速度で赤く見える。音と同様、光も遠ざかれば波長が伸びて赤くなる。やがて三人には見えなくなった。だが意志ある三人は念じ続けた。
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「「「当たれ!」」」

後書き


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参考動画




御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
Arigatogozaimashita. Thank you. I remember you.
Спасибо. Я не забуду тебя.
魔法陣拝借:
koht_mi
ガトリングレーザー・銃機関部拝借:
RaiR-211


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