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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  2.桃源編/9.友達 

 

三人は住んでいる小惑星に、桃源とうげん、と名前を付けた。
友達1

アルファーがラオに貰った桃の種をまいたあと、ラオもボドも繰り返し様子を見に来た。アルファーは農場システムを構築せず、ジョウロを手にして世話をしたがった。隣にはラオとボド。

「うっかりしていました。」とアルファー。
「--3年過ぎないと実が味わえないですね。」
「その間クロック数を下げれば一瞬だけど、それじゃ。」とラオ。

「アルファーさんのおししい桃が、食べられないですね。」とボド。
客観3年を一瞬として主観時間を切り詰めれば、すぐに桃の実は食べられても、その間アルファーの、桃を世話する姿が見えない。

「う~ん。」とアルファー。

「--先生、お茶の木を生成してくださいませんか?」
「いいよ、アルファー。」
ラオは樹木生成パオペエのコードを解凍しかける。

「ラオ先生。」とボド。
「私も、生成しましょう。ちょっと好みの茶葉がありますので。」
「それは楽しみです。是非お願いします。」
友達2

複数の宇宙を経巡ったボドのことだ、素晴らしい茶の木データを持っているだろう。ラオは解凍して現したパオペエにコマンドを入れ、眼前の土塊つちくれから茶の木を生成した。木となるとラオには、パオペエ無しでいきなりは生成できない。

一方ボドは目を閉じ歌を歌いながら、体を光らせ茶の木を出現させる。

「ありがとうございます! 先生方!」
アルファーが嬉しそうに、茶の木を抱えて農場の遠くへ駈けた。
「素晴らしいですね、ボド先生の生成は。」とラオ。

「ええ、いつの間にか出来るようになっていたのです。」
「やはり実体験の量でしょうか。」
「おそらくはそうです。それ以外に説明が付きません。」

遠くでアルファーが二本の茶の木を、土に植えている。
「ボド先生。私は。」とラオ。
「はい。」

「アルファーがああやって喜ぶと、とても嬉しいのです。」

***

友達3
アルファーはその後様々なものをねだったが、その全てが素材や植物だった。

アルファーはそれを加工し、面倒を見、テーブルにクロスを掛けたりお茶を淹れたりした。この桃源は、コッペパンのような形をしている。長径20km、短径5kmほどのずんぐりした小惑星をくり抜いて、居住セルが出来ている。

長径を軸にして1分1回転することで重力を得ているのだが、居住セルは殺風景。無論空調など生存環境は完璧。清掃や修築もロボットが働いている。だがテーブルにクロスを掛け、観葉植物を置き、ソファーを作ったのはアルファーだった。

それに腰掛け、アルファーの淹れたお茶を楽しみながらラオは思った。仮にアルファーが、黄金1tを欲しがっても、ラオは作ってやれる。リアクターの供給するエネルギーは、時間さえあれば十分岩石を変換できるし、クワントは超・長寿。

何なら宇宙機で出かけて、近傍の小惑星へ採鉱しに行ってもいい。

ボドならもっと簡単だろう。だがアルファーは、欲しがったものでクロスを掛けたり、お茶を淹れたりする。言わば貰いっぱなしということがない。AIであり、エゴの定義が助手だから、当然と言えばそうなのだが。

(賢い娘だな。本当に僕が作ったんだろうか。)
ラオ達の住む桃源は、ちっぽけな小惑星だが、三人が持つ能力で、不自由なく暮らせるし争いもない。宇宙という環境は変えられないが。
友達4

自分はやりよう次第で変えられる。ラオは自分がかつて生身の人間だった頃に見聞きした、争いを思い出した。迫り来る破滅を前に、奪い合い騙し合いがあった。死ななくてもいい人間が、大勢、殺された。

「ケンカしてる暇があったら、勉強や訓練すれば良かったのに。」とつぶやいた。

「私も、そう思います。」
気付けばボドがお茶を手に、対面に腰掛けようとしていた。
「ああボド先生。お耳汚しだったでしょう。」

「いやいや。」と首を振ってボドが続ける。
「--私はそればかり、ずっと考えて来たのです。」
「?」

「だから今望んでいるのです。人間として死にたいと。」
ラオはどうしてそうなのか、分からなかった。だが直感はした。
(今、それを質問すべきではない。)

無論尋ねれば説明してくれるだろうが、それを聞いても理解できそうにない。

「私には、わかりません。」
ラオは思うままに言った。ラオはこの宇宙の終わりまで、アルファーと共に過ごしてもいいと思っている。だがボドはここで生を終えたいという。
友達5

それでもボドの願いには、自分を超えた何かがあると思った。
「--でも先生の願いに、間違いはないのでしょう。いずれ地球に?」
「ええ、そのつもりです。」

「出来るだけ、お手伝いさせて頂きます。今はルナのエンジンをお作りですね。」
地球衛星軌道上に載せ、隕石の盾とする予定の準惑星。ルナ、と三人で名付けた。
「ええ。地球近くに運ぶにはその方がいいですから。」

ボドは毎日、桃源の表面に出てはエンジンを生成していた。

「資材は、十分でしょうか。」
「そろそろ、この桃源を削るのでは足りないでしょう。そもそも、そんなに削ってはいけませんし。」

くり抜かれて作られた居住セルは、直径2km程度のシリンダー状。その外を小惑星の岩石で覆うことで、宇宙線や高速で飛来するチリや岩石に耐える、装甲にしている。それを削れば、剥き身の貝のようにやられてしまう。

「では宇宙機で、近傍の小惑星を取ってきましょう。」
「そうですね。お願いできますか。ただ…。」
「物理計算ですねえ。」
友達6

アステロイドベルトに住むボド達は、無数の小惑星に取り囲まれている。

その一個を移動させると、小さな初動でもそれが連鎖して、どのような結果になるか想像しがたい。多分大したことはないだろうと、ラオもボドも見込んではいるのだが、無数の小惑星の未来位置を、全て見込んではいない。

そのシミュレーションなしで始めるほど、ラオもボドも不用心ではなかった。
「--計算機は作れますが。」とラオ。
「こういう演算をしたいという、意志ある者が要りますね。」とボド。

いわゆる多体問題。二つの運動する物質が、互いにどう重力を及ぼすかまでは、計算できる。3つ以上になると、もう電脳や単純AIでは無理。それを超える莫大な計算は、やりたがって壁を突破する、意志ある者が居ないと出来ない。

桃源は早くも、人手不足だった。

***

桃の種が芽を出した。
友達7

順調に育ち、苗となった。アルファーは可愛がって育てている。それは毎朝の、彼女の日課になっていた。1分1回転する桃源では、朝と夜は自然には訪れない。今は地球の自転を観測して、1日を約20時間と決めている。

時と共にそれは長くなるだろうが、いずれ地球に降りるボドのためにそうしていた。三人は自室で、朝と決めた時を迎える。自我がクワントに収まる三人は、寝る必要は必ずしも無いし、そもそも主観時間を自由に伸縮出来る。

それでも三人は、なるべく夜には寝ることにしていた。記述された記憶コードに必ずしも整合性はないし、無意識無作為に記述されたコードはところどころ、穴だらけ。記述を休んで欠けを修復し、穴を埋めていく時間が要る。

それは超人的なエゴコードを持つ、ラオやボドにも同じ。

何より寝た方が人間らしい。十分な睡眠の後は演算もはかどった。ラオはアルファをエゴ3本で設計した。だがそれでは説明が付かないほど、アルファの演算能力は高かった。それなら妹のアルファーにも、複雑な脳を休める時間が要る。

「先生方、お茶のお代わりはいかがですか?」
アルファーがポットを持ってやってきた。今はたまたまアルファーだが、日々の雑事も桃源のメンテも、気付いた三人の誰かがしている。

友達8
「ありがとう、アルファー。」
丁度空になったカップを上げてラオが言う。見ればアルファーは紺色のロングコートに、白いエプロンとキャップ。

メイド姿はラオにとって、はるか古代の衣装なのだが。

「ところで、先生。」
お茶を注ぎながらアルファーが言う。
「ん? 何だい?」

「昨夜観測した近傍天体ですが、桃源の20万kmまで接近して通過しました。」
宇宙の規模では、ニアミスと言っていい。
「それずっと見てたの?」

「はい。衝突可能性が低かったので、起こすまでもないと思いましたので。」
「たまたま君が見てくれてたんだね、アルファー。」
「ええ。でもこの先を考えますと不安はあります。」

自動観測装置は始めからあるし、警報を発するよう仕組んでもある。

だがマシンには意志がない。あるようにあり、なるようになるのを傍観するだけ。故障してしまえばそれすらない。あり続けたければ、その意志ある者が動くしかない。だから観測は、誰言い出すこともなく、三人がそれぞれ担ってきた。

だがボドはエンジンを作りたいし、アルファーは桃の世話をしたい。何もしたいことがないラオは、桃源のメンテや観測に費やす時間が多い。
「やはり私が、観測室に常駐した方がいいかな?」とラオ。

「そうなさるのも一案ですが、リアクターの管制も放置できません。」
「ではリアクター管制や観測を一本化しようか。」
配線をラオの自室に回すだけ。さほど難しくはない。

桃源のリアクターは、高温核融合炉。

融合炉は低温炉も高温炉も、分裂炉のような暴走はしないが、さすがに管理をマシン任せに出来るほど、打たれ強くもない。事故が起これば直近に太陽が出現するようなもので、三人は、良くてクワント粒子に戻されてしまう。
友達9

「一本化すると、先生のお休みになる時間が無くなります。」とアルファー。
「それはかまわないよ。もともと寝る必要はないのだし。」
「でも先生はお休みになると、私にはお元気に見えます。」

アルファーの言う通りだった。
「ラオ先生。」とボド。
「何でしょうか。」

「やはり人手を、増やすべきでは。」

うんうんとアルファーもうなずいている。
「アルファー、君もそう思うかい。」とラオ。
「ええ先生。その、私は。」

「何だい? 言ってご覧。」
「先生方がいらっしゃって幸せですが、その、友達も、欲しいのです。」
「!」

ラオは衝撃を受けた。(AIが、友達を欲しがるなんて!)
もちろん不愉快に思ったのではない。だが友達を欲しがるAIなど、ラオは見たことも聞いたこともなかった。

かつて読んだどんな文献にもなかった。

「う~ん。」
ラオはうなって目を閉じた。
「過ぎたお願いでした。申し訳ありません。」と小さくなるアルファー。

元宇宙で、姉アルファは最後まで、欲らしい欲を持たなかった。欲望と言えば悪に聞こえるが、それは人間の証拠でもある。今、妹のアルファーは、友達が欲しいと言う。疑似でしかなかったアルファーのエゴは、本物になったのだろうか?
友達10

パッと眼を開けてラオは言う。
「そうじゃないよアルファー。気付かなくてすまなかったね。」
友達が欲しい。人間として、当たり前の求めではないか。

「--よし、君の友達を作ろう。」

後書き


友達

参考動画



※2013年、ロシアでの隕石落下。この数分後に衝撃波、約1500人が負傷した。

御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
Arigatogozaimashita. Thank you. I remember you.
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