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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  2.桃源編/17.格闘 

 

ラオは、隊長AIの新規生成に取り組んでいた。
格闘1

アルファーの心情には驚愕したが、それだけに彼女の心をいたわってやりたい。
(心、か。)
もうアルファーのエゴは、疑似とは言えなくなっているのだろう。

AIとしての彼女の優秀さも、こういうエゴだからだろう。ラオはかつてアルファを生成した時を思い出しながら、自身のデータベースから、様々なエゴを検索しては閲覧していた。だがアルファーを知ってしまった今となっては。

どれもこれも見劣りがする。そもそも、史上の軍人は男性がほとんど。男性のエゴをAIに混ぜると、まれに死ぬかおネエになると知られていた。おネエは別にかまわないが、死なすのは可哀想。こうしてデータを古代までさかのぼった。

結局は宇宙時代以降の、宇宙艦隊の女性士官しかない、となった。

だが彼女たちのエゴデータなどラオは知らない。思い立って再びロミを尋ねる。さすが船乗りだけあってロミは、その情報を豊富に持っていた。苦笑してデータを渡してくれた。貰ったデータは、何せ軍隊のデータだけに、記録が実用的。

だがそのままでは使えない。故人に敬意を払うため。だから複数のデータから「ええとこ取り」をするしかないが、これが簡単ではない。長所は短所とセットだから。このためデータをディスプレイ上に並べて映した。形は立体バーコード状。

格闘2
それらを継ぎはぎ、新しいのを作る。だが継いだとたんに他の箇所が消えたり、接続不能とエラーが出たりする。アプリケーションにパラメータを与えて自動化はできるが、出来たエゴがどうも思わしくない。やはり人間の仕事というものは。

その意志ある人間でないと出来ないのだろう。理の当然でラオは自室に缶詰。

***

事情を知って、桃源の客間に他のメンバーが集まっていた。

「やはり100体というのは、無茶だったかも知れません。」とボド。
「お気持ちィ察しやすが、宇宙大戦争おっぱじめるワケじゃあ、ございやせんでしょう。」とロミ。

「ラオ先生がまた、取り越し苦労しています。先生に何かあったら私…。」とアルファー。
「アルファーちゃん。あなたも大丈夫?」とサーラ。

「--先生のは、取り込み苦労よ。」
超人が集まっている桃源&彗星だが、やはり人間の集まりである以上、こうした問題は避けがたい。

「とりあえずカーラちゃん一人の義体だけ、作ってみては?」とサーラ。

「私のを、参考にすればよい。」とワーレ。
「そうですね。カーラ、どう思う。」とボド。「…。」
ホリゴタツ上のカーラは漆黒のクリスタルから、ワーレに拡散光を飛ばした。
格闘3

「? …よかろう。」そう言ってワーレは、カーラを伴って客間を出て行った。
「どこへ行くんです?」とアルファー。
ロミとサーラはにやにやしている。

「おおかた、ウチの闘技場でしょうぜ。」とロミ。
「何するんでしょう?」と不安げにアルファー。
「決まってるわ。果たし合いよ。」とサーラ。

「果たし合い!」とアルファーが席を立つ。

「まあまあアルファーちゃん。落ち着いて。」サーラが引き留める。
「大丈夫でしょうよお。ワーレもわかっちゃあ、いるでござんしょうから。」
「カーラも、腕試しと認識するはずです。」とボド。

「皆さん方ァ、数億…いや数十億年ぶりの悪意に、びっくりなすってるのはごもっともでやす。それにカーンティちゃんを思やあ、無理もございやせん。してももうチイとばかし、落ち着きなすっては、いかがでございやしょう。」

「仰る通りです。気持ちがささくれ立って、いたようです。」とボド。
「モレク程度のクワントなら、今ならあたしらだっていますわ。どうにでも、なるでしょう。」とサーラ。

「確かに…そうですね。」と落ち着いたアルファーにロミが言う。

「皆さん方ァ、どうでやしょう。ここは一つ、旅ィにでも出やせんか。」
「「行くー!」」「行きます!」とAI三人娘。
クリスタルが、ホリゴタツの上でぴょんぴょん跳びはねた。

「どこへ、行くのでしょう?」とアルファー。
「まあ、よその星ぃ行っても、よござんしょうがねい。」
「それはちょっと…。」

「あい。時間もかかりやすし留守も心配だ。とりあえず近場で、地球ってえのは、いかがでございやしょう。」
「よいところにお気づきになられました。」とボド。

「--我々もまたラオ先生同様、缶詰めになっているようなものですから。」

「数十億年の、缶詰め、ね。うふふ。」とサーラ。
そこへラオが、タブレットを持って入ってきた。何かブツブツ言っている。
「4e36faから7524bdの…。」
格闘4

「ラオ先生!」
「ん…ああアルファー。皆さん。」
「旅行に、行きましょう。」

「旅行? どうして?」「…。」
「ラオ先生。カーラのことは、しばらく、お休みにしましょう。」とボド。
「え?…まあ先生がそう仰るのなら。でもアルファーのことを考えると…。」

「その、アルファーちゃんのためでもありますわ。」とサーラ。

「いやだからこうやって、作業を…。」
(こりゃあ、ダメだあ。)(やっぱ学者先生だわぁ、この方。)
彗星二人組は頭を抱えた。

確かにラオは正札付きに良心的。恋愛感情はともかく、アルファーを深く愛しているのも、間違いない。ただし、他人の気持ちになって考える、それが出来ない。
「行きましょうよ、先生。」アルファーがラオの腕を取り、脇に挟んだ。

「あ、ああ、君がそう言うなら。」「嬉しい。私、楽しみです。」
微笑みと共にそれを見たボドが言う。
「ところで、留守番ですが。カーンティと私は、残ります。」

「いんや先生。」とロミ。

「--先生とカーンティちゃんこそ、行くべきでしょうよ。ナニ、旅行ってったって日帰りみてえなもんだ。桃源とウチの鍵ィ閉めて、みんなして行きやしょうや。道中の安全は、憚りながらこのロミが、引き受けやした。」

「そうですね。ではよろしくお願いします。」
「承知しやした。さ、そうと決まりゃあ早速だ。支度するぞ、サーラ。」
「ええ、楽しい忙がしさになりそうですわ。ふふ。」

地球往還には莫大なコストがかかる。それをものともしないロミ達には確信があった。客船乗りでもあった二人は、雑多な乗客を見て即座に、その集団の性格を読み取れる。同様に見れば桃源の一同は、好意の交換をする価値のある人々らしい。

それは新宇宙でも、まれな事だった。

***

宇宙時代以降、武器は棒が主力になっている。
格闘5

閉鎖空間で火器を使うと、殻を破って自分も巻き添えを食うから。地上戦闘では何でもありだが、火器さえ扱えれば兵士が務まる時代ではない。棒にも長さは様々あるが、室内格闘で使いやすい両腕幅の棒は、広くじょうと呼ばれていた。

ワーレは彗星の闘技場にカーラを誘うと、杖を持って向かい合った。
「ヴォン」
クリスタルが震えて、カーラはワーレを複写したホログラムを立ち上げる。

飛び回るクリスタルと戦うのを覚悟していたワーレは、「ほう」と目を見張った。お互いハンディ無し、ということか。ならば存分に戦える。互いに正面から向かい合い、右手で杖の真ん中をつかみ、手首を返して肩に付ける。

視線を交わして了解し合うと、スッとワーレが半身になって杖を前に構えた。

その先はAI義体の弱点、額に向けられている。行くぞ、ということ。カーラは右手をだらんと下げたまま何もしない。だがその杖先はやはり、ワーレの眉間を指していた。来い、ということ。もちろん、ワーレが持っている杖は練習用。

だがカーボンとチタンの複合材で、まともに当たれば重傷を負う。すり足でスススと進んだワーレが、あと一歩でカーラを打撃出来る間合いで変化した。腰をひねって杖を回し、両手いっぱいに取ってみぞおちを狙う。気合いと共に杖が突出。
格闘6

カーラは杖がみぞおちを砕く寸前、下がって半身になりかわすと、突き下げるように自分の杖でワーレのそれを受け止めた。そのまま前進して杖を回す。シャアアアと音まで出るが、杖と杖がこすれて火花が出る、わけではない。

カーラはホログラムだから。

膨大な演算をこなしてクリスタルから重粒子を撃ち、ワーレの杖を受け止めている。音は接触点から出ているかのように、粒子を振るわせ出している。(ははははは!)刻々こうした現象を再現するカーラの能力に、ワーレは狂喜した。

カーラは杖の反対側の先端を短く持ち、ワーレの鼻を砕こうとする。誰でも鼻は弱点。そして義体は結局、生身を模倣するしかなかった。生身にないあれこれの機能をどんなに付けても、とがった性能に引きずられて人格が破綻した。

だから生身を忠実に再現し、機能を強化したものになる。だから弱点もそのまま、引き継いでいる。ワーレは、鼻先に突進してくるカーラの杖をこれも寸前でかわす。体変化して、杖を両手いっぱいに取り、真ん中でカーラの右アゴを。

引っかけた。これが見事決まるとワーレはくるりと体を回した。

カーラに回転を与えて倒そうとする。もんどり打ってカーラが崩れるかに見えた。
「!」何とカーラは下半身のバネで体勢を維持し、後ろからワーレの後頭部に杖先を付けていた。当たれば頭蓋が割られていたはず。
格闘7

杖先から「ジジジ」と音を感じる。二人ピタリと止まってから元の位置に戻る。視線を交わして攻守を替わる。すり足でワーレに近付いたカーラは、しなやかに体を回しワーレの足を薙いだ。飛び上がって足を薙ぐ杖をかわすワーレ。

その瞬間カーラが杖を回した。突きを入れ、ワーレの喉を砕きに行く。ワーレは空中で回転している。空中では体の変化は不可能。カーラの杖は正確に、ワーレの喉の未来位置に。当たればワーレは死ぬ。義体ゆえ仮死ではあっても死ぬ。

だがカーラは寸止めのまま動かない。「負けた」とカーラ。

ワーレは飛ぶ時にはすでに、カーラの額を破りに行っていた。その動きはカーラより半瞬間早い。しかもカーラは演算が間に合わず、頭部のホログラムに乱れを入れてしまった。お互い「ニイ」と微笑んだワーレとカーラ。次の瞬間。

カーラが体の正面、垂直に杖を立て、ワーレに突進。これにはワーレも驚いた。杖の撃ち合い程度の質量なら、粒子放射で出来るだろうが、体重まで再現するとは。さすがに完全再現ではなかったようで、ワーレは何とか踏みとどまる。

もし実体化していたら吹っ飛ばされていた。だが驚愕はさらに続く。力に力で止まったワーレ。足は後ろに重心は前に。カーラがほんの小さな力で、トンとワーレの鼠蹊部を突く。エビ折りに転ぶワーレ。が、即座に跳ね起きた。「来いやぁ!」

戦う影が、闘技場の床に妖しく映っていた。
格闘8

後書き

格闘

参考動画




御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
道場背景拝借:
http://www.irasutoya.com/


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