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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  2.桃源編/18.体得 

 

ラオはカーラの義体を設計していた。

カーラは言う。「ワーレと同じで、同じでない義体。」
ラオが首をかしげていると、ボドが補足した。
「ワーレさんと同等の性能でないと、勝てません。」

「そうでしょうね。」
「でも同じでは、ワーレさんが嫌がります。嫌われたら戦って貰えません。人は憎悪を抱くと戦いますが、心底忌み嫌うと遠ざかります。」

ああそういうことか、とラオは理解して、ロミの了解を得た後で、ワーレに義体の解析をしていいか、と頼んだ。
「軍事機密です。」とワーレ。
体得1

「だがデータは、出します。」

そう言って額に空の記憶素子を当ててからラオに渡した。見せるのはいいが、見られるのはお断り、ということだろう。そこはクワント義体でも女性。
「ご協力感謝します。」そう言ったラオを、ロミがにやにや眺めていた。

ラオはカーラとアルファーを伴って自室に入ると、受け取った義体データをスクリーンに映した。
「格闘は知らないけど、工学的には無駄がないね。」とラオ。

「でもどうしてこんなに、レアメタル使ってあるんでしょう?」とアルファー。
「…。」カーラは沈黙している。
「これ、素材生成するのにエネルギー要るね。」

「…廃棄物も、出る。」とカーラ。

「何でしょうこのバイパス回路。何が通るんでしょう。」
「分からないなあ。どうだろう、カーラ。」
「…分からない。」

「やめておこうか?」
「…やめない。乗りこなす。」
「…どんな兵器や義体でも」とボドが言っていたからには、大丈夫なんだろう。
体得2

おそらく、兵士としては戦闘AIであるカーラの方が優秀だろう。いくつもの宇宙を経たボドが作っただけに、知識や経験量はワーレより多いはず。だがカーラも戦闘の全てを知っているわけではないし、ワーレの義体も、未知との遭遇。

「じゃあ内部設計はこの通り作るとして、デザインどうする?」

「体格はこの通り。あとは平均化。」とカーラ。
「平均化。う~ん計算が膨大になるから、対象を絞ってくれないかな。」
「兵隊。」

「兵隊にもいろいろありますよ?」とアルファー。
「…司厨しちゅう兵。」とカーラ。
「司厨兵?!」

「ごはん、作るの?」とラオ。
「食事、戦争の基本。戦争、食事で起きて食事で続く。」
カーラの言葉は簡潔すぎて、ラオたちにはよく分からない。

だが想像は出来た。

人間はメシを食わねば死ぬ。そして形のない不安に怯える。死なない程度に食えている者が、戦争だ戦争だとよく叫ぶ。飢え死にした者は叫ばない。しかかっている者は、その元気もない。叫ぶ者は、中途半端に生涯が長くて困っている。

カゲロウに摂食機能はない。朝生まれて昼間異性と交わって晩に死ぬだけ。一方人はいつ死ぬか分からない。そしてその間不安だらけ。
「まあ君が司厨兵と言うならそうするよ。」とラオ。

触手をコンピュータにつないだ。過去の司厨兵の外見データを入力すると、スクリーンに幾千万の女性司厨兵の顔が猛烈な速度で切り替わり、やがて雲のように曖昧になり、それがだんだん形を取ってきて止まった。
体得3

濃い灰色の髪で黄色い肌で目が大きく、人の良さそうな女性が微笑んでいた。

***

地球旅行は決まったが、今すぐ、ではない。

行けはするがまさに星の巡り合わせで、桃源と地球の距離が近い時を選んだ方がいい。だいたい3ヶ月ですかねい、とロミが言うので、その間一同は旅の支度などして過ごした。イチゴ彗星では、保有船の一隻をマーイ以外の3人が改装している。

船の形はややふくれた紡錘形、加速器のリングが付いている。上側に平らなデッキが取り付けられており、反対側の下には、展望客室が取り付けられていた。そこは全員が義体のままでも十分な広さがある。万一の場合は切り離せもする

ここだけでも宇宙船になる。さらに救命艇を兼ねた搭載艇も3艘載せ、安全を考えて装甲やエンジンも強靱化していた。地球往復には、十分な船と言っていい。巡航速度は飛ぶクリスタルには及ばないが、万一を考えて武装も付けた。

彗星の作業ロボットを引き連れたロミ。

体得4
溶接の火花を散らし、ツナギを着てエンジンに潜っている。サーラもツナギを着、内装を青とクリーム色でまとめ、バスルームを取り付けている。ワーレはクレーンを操作して、武器庫に、何やら弾体を搬入している。

一方、義体のないAI三人娘は旅の支度と言っても、これといってする事がない。
「なーにー。これー。」
ワーレの肩に止まってクレーン操作を手伝っていたガマが、弾体に飛び移る。

「反物質魚雷。」
「わ。」ぞっとしたガマが飛び離れた。
生まれて間もない彼女たちの好奇心は、旺盛。

地球旅行で、どのような才能を開花させるのだろう。

他方、マーイは格納庫にいない。「頼まァ。」とロミに言われて、カーンティに付き添っていた。ここは彼女自慢の庭園で、彗星農場の一角に芝を敷き、池や藤棚がしつらえてある。芝の上に赤い毛氈もうせん、そして大きな朱傘。

カーンティはマーイに世話されるにつれ、視線は動くようになったが言葉が出ず、表情も動かない。マーイがふと見ると、白い服をまとったボドが、杖を片手にこちらに歩いてきた。毛氈の上で、足を崩してくつろいでいた彼女。

正座してボドを迎える。ボドは一礼して毛氈の端に座った。
「先生、もっとこちらに。」
「いえ、ここでよろしいのです。」
体得5

雨が降った。

降雨を延期しようと庭園の受信点を見たマーイだったが、ボドは止めた。マーイとカーンティは傘の下だが、雨は容赦なくボドに降りかかる。濡れた程度で義体に影響は無いが、リンクを切らない限り’不快’ではある。

微動だにせず、ボドは娘を見ている。毛氈に雨がやや染みた。偶然、飛び跳ねた雨の一滴が、カーンティの頬に当たった。そのまま彼女は視線を父に向ける。父は濡れそぼっている。互いの視線が交わされる。彼女の口元が、ぴく、と震えた。

「…怖かった。」
「…。」
「怖かった怖かった怖かった。怖かったよぉーーー!」

カーンティがボドに突進した。やがて雨は、止んだ。

***

結局カーラの希望で、ラオは髪の色を黒に変えた義体を設計した。

それをもとにボドが義体を生成し、見届けた後生成室を出た。無言のまま生成カプセルを出たカーラ。うすぎぬ一枚の彼女にアルファーは、パオペエを操作して服を作ろうとし、カーラの希望によりまず、ワーレと同様の戦闘スーツを生成した。

体得6
「感謝。」とだけ言ってカーラは、生成室を出て行った。「オオオオオッ!」廊下から歓喜の雄叫びのようなものが聞こえたようである。顔を見合わせていると入れ替わりに、AI三人娘のクリスタルが入ってきて、「「「先生-!」」」と言う。

「なんだい?」
「「義体、作ってー!」」「義体を、下さい。」
「いいよ。デザイン決まったんだね。」

「「「はい。」」」

「よし、見せて貰おうかな。」
「「「はい!」」」
3人のクリスタルから、ホログラムがそれぞれに投影された。

ヴィタとガマのそれは幾分小振りで、生身で言えば十歳ちょい過ぎに見える。
「これでいいの? もっと大人でなくて。」
「「うん。」」

「じゃあそうしようか。ゼルタは二十歳ぐらいだね。その服は?」
「…船長さんの、真似です。」
ロミの着る船長服と同じ、ただしボトムはタイトスカート。

違うのは袖に巻いた線が4本でなく1本、色は金でなく銀。

一方ヴィタとガマは、フリフリがいっぱい付いた妙な服を映していたが、ゼルタの服を見て瞬時に同じものに変えた。
「「これがいー!!」」
体得7

ただし体が小さい分ややだぶだぶで、肌にぴったりとしたゼルタとは違う。髪はゼルタが栗毛色、ヴィタが紫でガマが緑。瞳はゼルタがやはり栗毛色、ヴィタが緑でガマが紫。肌の色は共に白いが、ヴィタとガマは双子で裏返しのよう。

「じゃあ生成するけど、服とかは自分で作って。パオペエそこにあるから。」
「「はーい。」」「はい。」
三人娘は義体を得ると、生成室にしつらえられた衣服パオペエを取り囲んだ。

アルファーに使い方を教わる。

ヴィタとガマはキャッキャと、やはりフリフリの服とかを生成している。三人娘のよどみない義体の動きを見て、ラオは思った。
(そうか。やはりアルファが。言ってくれれば義体化してあげたのに…。)

アルファーの時もそうだったが、義体を得てすぐに動かせるからには、姉アルファを引き継いだ三人娘のクワントには、操作が情報ではなく経験として記録されていたのだろう。疑似空間で訓練を積んだと考えて間違いない。

ラオが追憶していると、アルファーの、やや強めの口調が耳に入った。
「エネルギーもバリオンも無限ではありませんよ。上着ばかりじゃなく。下着も作りなさい。」

ラオはあわてて生成室を出た。
体得8

***

バシッ! バシッ!

今度こそ本物の火花が散っていた。桃源の巨大なレールガンの下で、義体化したカーラとワーレが戦っている。互いに寸止めでだが、急所以外は容赦なく打ちのめすし、杖と杖は激しくぶつかる。杖先に電磁放射器まで付いていた。

カーラにすっ飛ばされてワーレが転がる。受け身を取って立ち上がったワーレが、ぶん、とカーラを薙ぐと、ひっくり返ったカーラが床に後頭部を打った。義体の操作は、まだワーレの方に一日の長がある。サク、とワーレが杖先を突きつけた。

互いに視線を交わした瞬間、とんぼ返りしてカーラが跳ね起きると、杖先をワーレの脇腹に押し当て電磁線を放った。びく、とワーレは震えたがすぐに飛び退き、投げやりのように電磁器を発動させたままカーラに投げ、ひるんだ彼女に突進した。

足を払われカーラがまたひっくり返る。

ワーレの手はカーラの喉を締め上げた。指先で急所を押さえられカーラがぐったりする。とたん、カーラは額からクワントを放ってクリスタルに移る。チェーンを切り離し空中に浮かび、「ヴォン」とホログラム化。ワーレもそれにならう。
体得9

倒れた義体を放置して、互いにホログラムで戦う二人。今度はカーラの方に分があった。ワーレもかなりホログラムを使うが、打撃に集中すると画像が乱れる。負けを悟ってホログラムを消し、クリスタルから光線を放つ。

カーラもまた応じる。互いに出力を押さえているのは、むしろ桃源を傷つけないため。そこへ杖を突いたボドがやってきた。二人は戦いをやめピタリと止まる。ボドはゆるゆると二人に近づくと、やや距離を取って立ち止まった。二人がいぶかる。

「ご覧なさい。」とボド。「「?」」

その瞬間、目にも止まらぬ早さでボドが杖を構えた。二人と流派は違うようだが、流れるようになめらかな動きで四方を防ぎ、打ち、薙ぎ、突いていく。動きはゆっくりに見えるがスキが無く、背中を見せようと打ち込む気になれない。

打ったら確実にやられると、遠い野生の本能が危険を告げる。気やオーラと呼んでもいいが、九分九厘の者の目には見えない。だが’殺される’という恐怖はたいてい感じる。感じない者は街角で、気軽に殺したり殺されたりしている。

さらにボドは指から小さな光球を出す。飛び回り始めた光球を、ボドは巧みに杖を操り切っていく。丸い杖にものが切れるわけがないのに、たとえ実体だろうと(これは切れてる)と二人を震え上がらせた。ボドが動きを止め、光球を消す。
体得10

2つのクリスタルは、しばらく動けなかった。

後書き

体得11

カーラに杖持たせてみやした。こんなんで戦闘AIに殴られたら、「ひのきのぼう」だろうとお陀仏でございやす。

作者九去堂敬白。

参考動画




御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
Arigatogozaimashita. Thank you. I remember you.
おパンツ拝借:
laobc@http://free-illustrations.gatag.net/


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