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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  3.地球旅行編/28.帆走 

 

ブリッジに全員が集まっていた。

摂理と自分たちの生存。そして地球の知的生命に会いたいか。桃源の三人娘はすぐさま同意し、カーラも頷いた。一方イチゴ彗星のサーラたちは、どちらでもよいと言ったが、自分の生存なら話が違う。

「実際、どうなるんですかい。」とロミ。
「--目の前の地球に人間が出りゃあ、私らァは助かるんですかい?」
「それは、わかりません。」とボド。

「--ただ、異なる知的生命は、同一地平線内に居ない。これはほぼ確実です。」
「やっぱり居なくなっちゃったのかな。」とヴィタ。
「摂理に消されたか、遠くに去ったか、あるいは…。」とガマ。

「あるいは?」「その地球生命に溶け込んだか。」

「溶け込むって?」「それはよくわからないけど…。」
「まず遠くに去るのは無しね。」とサーラ。「「?」」
「どこへ逃げても同じだわ。怯えながら逃げ回ることになる。」「「…。」」
帆走1

「どうすればいいんでしょう、ラオ先生。」とゼルタ。
「もし私やみんなが生き延びるなら、結論は溶け込む、かな。」
「それで大丈夫なんでしょうか。」

「…わからない。溶け込む、というのが何を意味するのか。でもこのまま放置すれば、私やみんなは消えることになるだろうね。」
人間に分かるのは、今まではこうだった、ということだけ。

その先はバクチでしかない。神様も人間も、バクチの常習者。

いや、否応なくバクチさせられているんだと、ガマは思った。させられているなら、それは至高の存在ではない。(人間も神様、いや摂理も、それなら平等?)
「現状を維持し続ける、というのはどうでしょう。」とアルファー。

「その手も、ある。」とラオ。
「今私たちはここにいるんですよね。地平線内に知的生命がいなければいい。」
「生まれないようにすば、生き延びられる、ということ?」とヴィタ。

「「「…。」」」「でもそうするなら。」とマーイ。
「--私たちはモレクのように、星を焼かなければ、ならなくなりますよ?」
「「「…。」」」「逃げ回るのと、変わらない。」とワーレ。

「--いや、怯えるだけで済まない。もっと悪い。」怯える者こそ、他を傷つける。

「それによォ、焼いて焼き切れるもんじゃねえ。途方もない空間だぜ?」とロミ。
「もう一度、同じ問いに帰りましょう。知的生命に、会いたいか。」とボド。
人類は、必死に他の知的生命を探した。宇宙をまだヨチヨチ歩きしていた頃から。
帆走2

超絶技術を持つ宇宙人に見つかり征服される、との主張もあったが。だが結局は、宇宙の隅々を探し回った。それは寂しいからだろう。または同じ地球の連中に、うんざりしたからだろう。一同もまた、目の前の地球の知的生命に会いたい。

「イチゴーよお。」ロミが天井を見上げて言った。
「はい船長。」「お前ェはどうでえ。」「私は、会いたいと思います。」
「そうけえ。」やや考えるロミ。そしておもむろに言う。

「--んじゃま皆さん方、決まりってことじゃあ、ござんせんか。」

「…なんだか、好き嫌いで決めているような。」とラオ。
「それでよいと、私は思っています。」とボド。
「?」「人の決断は理屈を言っても、結局好き嫌いでしかありません。」

この地球旅行も、そうだった。ロミたちクルーは、安全のため理屈を突き詰めたが、それは行くのが好きだったから。ラオたちも違いはない。どうやら決断の理由付けは、決めたあとに来るものらしい。

「忙しく、なりそうですねい。」「人手も、増やさなくちゃ。」「エネルギーも足りないわね。」「作業環境も、手狭です。」「ひっそり暮らす、ってわけにはいかないかぁ。」「先生は最近、おっくうがります。」

そう言ってアルファーがラオの髪を直した。(やったぜ!)(やったわ!)
帆走3
***

地球を離れる、時が来た。

当直のサーラ以外全員が、船外にいた。気密ドームにいるロミ達士官は正装。他の乗客一同は、一番のおめかしをしている。ロボット乗務員たちは、作業服を着たAI三人娘とカーラの候補生と共に、一部を除いてドーム外に整列していた。

「ボースン!」と船長ロミ。「はい。」
「帆走を、準備せよ。」「了解しました。」
「イチゴ~1号~ォ。帆柱ァ~を、出せ~。」ボースンが、独特の口調で命じた。
帆走4

ロクデナシ号の細長いハッチが開き、全長1キロはある帆柱が現れた。
「全員~、配置~に、付けェ~。」
ロボット乗務員と、AI三人娘、それにカーラが帆柱に取り付いた。

「帆柱ァ~を、立ち~上げよ~。」

帆柱が繰帆員を取り付かせたまま、ゆるゆると立ち上がった。
「各員~は、安全~を、確認~せよ。事故~の、防止~に、努めよ~。」
Iの字の帆柱が立ち上がった。

幾本ものロープが、帆柱のあちこちからロミたちの元へと斜めに伸びた。繰帆員たちは、すでに豆粒のように見える。「帆桁ァ~を、展開~い、せよ~。」
Iの字だった帆柱から帆桁が立ち上がり、キの字になっていく。

繰帆員たちはそれに合わせて、帆桁の上に移動。やがて帆桁が帆柱と直交する。
「甲板員~は、配置~に、付け~。候補生~は、甲板~に、降りよ~。」
三人娘とカーラ、繰帆員の多くが、ロープを伝って降りてきた。

そしてロープを船体の滑車に通し、さらにビレイピンで固定した。
帆走_006

「イチゴ1号~ォ。舵輪~を、出せ~。」ロミの前に、指揮台が出てきて止まった。演説台のような形をしており、ススス、とディスプレイのホログラムが立ち上がる。その前には舵輪が付き、右側にレバーがあった。

「イチゴ1号~ォ。舵~を、出せ~。」ロクデナシ号の後部両舷の、これまた細長いハッチが開く。板状の舵が左右に張り出して止まった。「船長。帆走、準備完了しました。」ボースンが敬礼した。

「よろしい。全員、地球~に、注目~!」乗員が地球の方を見、直立した。もちろん、乗客一同も。「気を~付け~ィ。地球に、登舷礼~ィ!」とロミ。
ボースンが、電磁波ホイッスルを横口にくわえ、吹いた。

「ピィ。ピィ~~~~~イィ~~~!」

繰帆員は直立して地球を注視し、それ以外の乗員は手をかざして敬礼。ラオとアルファーはそれにならった。ボドとカーンティは、地球に合掌。
「出港せよ。」とロミ。「了解。出港~ォ!」

ボースンが叫べば、下士官が「出港~ォ!」と応じる。乗員は慌ただしく準備に動く。「パンカパンカパーン、パンカパンカパーン!」ラッパ手の女性型水夫ロボットが、景気よく出港ラッパを鳴らした。
帆走7

「帆ォ~を、下ろせ~。」とボースン。
真っ白な帆が、下側帆桁と共にゆるゆる降りていく。繰帆員は絡まないよう、上側帆桁で帆やロープを操っている。

やがて帆が下り、太陽風を受けて膨らみ始めた。

巨体のロクデナシ号が、ゆるゆると動き始めた。ロミは舵輪とレバーを握り、指揮盤の上の表示を注視している。「帆傾斜、ふたじゅうなな度!」とロミ。
「了解。帆~傾斜~ァ、ふたじゅ~う、ななぁ~ど~ぉ。」とボースン。

甲板員がビレイピンを外し、ロープに一列に取り付いた。それぞれの長として、下士官や候補生が付いた。「引け~ィ」とボースン。甲板員がかけ声を掛けて、ロープを引く。「two, six, heave! two, six, heave!」

三人娘やカーラもその中にいる。ゆるゆると帆桁が回り始め、指定の位置に付く。ロミが触れるか触れないかの握りで、舵輪とレバーを動かした。小エンジンスラスタ付きの巨大な舵が、角度を変える。ロクデナシ号がゆるゆる方向を変えて。

変え終わらないうちにロミは舵輪とレバーを戻す。
帆走8

船のような巨体は、動き始めた時に舵を戻さないと行きすぎてしまう。
「候補生は、指揮盤へ。」「「「了解。」」」
カーラを残して三人娘が、ロミの元へとやって来た。

「候補生ヴィタ、舵輪を取れ。進路はこのままを維持せよ。候補生ガマ、天測。候補生ゼルタ、ヴィタを補佐し安全を確保せよ。」「「「了解!」」」
ロミは一歩下がる。ヴィタが震える手で舵輪を執った。

ガマは六分儀をワーレに手渡され、超ハイアイの望遠鏡を覗く。ヴィタはガマの隣に立ち、乗員全体を見張った。その反対側にはボースンが立つ。ロミは画板を取り出し、その上の特殊な紙に何か書き付ける。

「候補生ガマ。位置は。」

「はい。xはち、なな、よん、yきゅう、ごう、ろく、zふた、よん、よんです。」
「よろしい。」ロミは鉛筆でそれを書き付けた。しばらくして、ロミがガマに位置を訪ね、やはり鉛筆で書き付けた。

「候補生ヴィタ。進路247、0。取り舵。」「了解。とぉぉぉりかぁぁぁじ。」
ロクデナシ号が進路を変える、その前に、「戻せ。」とロミ。
「了解。もどぉぉぉせぇぇぇ。」
帆走_012

音もなく、と言えば宇宙空間だから当たり前だが、ラオとアルファーは、確かに風の音と、ザバ、ザバ、という船の進む音を聞いた。帆はめいっぱい膨らんで、光を受けてキラキラ輝く。

ロクデナシ号はまっすぐ進むのではなく、うねりながら飛んでいる。

そのかすかな、ゆっくりとした揺れに、カーンティは経験したことのない安らぎを感じた。これが、ふね。ロケットでもクリスタルでもない、ふね。船長たちが宇宙航行といわず、かたくなに「航海」と言っていた理由がよく分かった。

(来て良かった。…これだけでも。)

20分ほどして、ロミが候補生の交替を命じる。その度ごとに位置を書き付け、進路の変更を命じた。宇宙空間に場を移しても、舵輪をどれだけ執ったかが、航海士としての業績。ロミはヴィタたちに、証明書を書いてやるつもり。

三人娘が交替し終えると、ロミは再び舵輪を執ってボースンに命じた。
「アクティブ帆走、用意。」「了解。アクティ~ブ、帆走~を、用意せよ~。」
繰帆員が帆桁から降り、甲板員は帆を中央に戻して固定した。

「イチゴ1号~ォ。照射器~を、出せ~。」
ボースンが命じると、甲板が開き、巨大な光子照射器がせり出した。
「出力50、照射。」ロミの命令と共に、強い光が帆を照らす。

それは刻々と色を変え、帆は虹のように輝いた。
帆走10

後書き


光子帆走は、現在でも実用化に向けて実験中のようでありやす。理論としては、ありなんでやすね。
なお「two, six, heave! two, six, heave!」は、英国海軍の、ロープ引きのかけ声なんだそうで。あたしゃあ帆走実習船、’あこがれ’号で学びやした。
ビレイピンってえのは、すりこ木ぐらいの大きさの、ずしりと重い真鍮のピンでやす。
帆走11
…いい、船でしたねい。

作者九去堂敬白。

参考動画



※作者撮影。

御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
Arigatogozaimashita. Thank you. I remember you.
宇宙服拝借:
Lady-Aurora-Moon
トランペット拝借:
devilkkw
舵輪拝借:
まりりん@Marilyn Monroe
コンパス拝借:
rg1024@http://free-illustrations.gatag.net/


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