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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  4.木星往還編/37.脱出 

 

ミルヒ・クー号は木星を一旦離れ、楕円軌道の頂点に近づいている。
脱出1

船長サーラは、ブリッジに座ったまま目を閉じ、せめてもの休憩中。右手の平で目を覆い、エゴを休ませようとしていた。木星から遠いこの宙域では、航行をニゴーに任せていてほとんど問題はない。一方ガマとカーラは、メンテ室に。

「だいぶ、できたな。」とカーラ。
負傷したロボット乗員が1ダースほど、寝かされている。治療というか修理は、これもロボットが行っている。負傷者のほとんどは機関員。

ブリッジと違い機関に取り付き、時に動かねばならないため、はね飛ばされた者が多い。その責任をガマは感じる。もちろん機関員は防護服を着ていたが、その機能を上回るほど、船は叩きのめされた。計器や機関の破損も多い。

(何か、出来ることはないのかしら。何か…。)

ガマは必死で考えている。同じAIでも、ガマたち自我を持つAIとロボットAIの違いは、ここにある。何かしたいから考えるし、何かする。
「ここはいいから、お前は機関室に戻れ。」とカーラ。

機関室の修理はロボットが行っているが、ガマはそれを指揮しなければならない。負傷者を運び込むついでに、少しだけ様子を見に来たのだった。
「お願い。」そう言うガマの額にも、補修パッチが貼られている。
脱出2

ガマはメンテ室を去った。カーラは戦闘AIの機能として、救護の心得がある。それは生体でも義体でも同じだった。負傷者は全く動かない者から、ぴくぴくと痙攣している者までいる。こうした光景を記憶としてカーラは持つが、実体験は初。

電脳活動が、止まりかけた者がいた。頭部を大きく損傷している。

保護殻が割れて回路が見える。目を見開き動かない。治療ロボットは一旦取り付き、’修理不能’と判断して放置した。修理にもコスト。トリアージの判断だった。
「…。」

カーラはじっとそのロボットを見る。過去の戦場での記憶と重なるが、カーラもまた呼びかけたりはしない。助からないと、分かっているから。だが沸き上がってくる釈然としない気持ちに、カーラはロボットを凝視していたのだった。

ロボットの演算活動が停止した。処理ロボットが廃棄しようとする。分解炉に投入してバリオンに戻し、船の部品か、修理部材か、新しいロボットの材料になる。
「待て。」

カーラは開いたままの目を閉じてやり、手を組ませてやった。

いいぞ、というカーラの声を、処理ロボットは待っている。自分もああだったろうな、とカーラは思う。
(いつ、私は変わったのか。)(なぜ、私は生まれたのか。)
脱出3

単純な答えは分かっている。ボドが生成したから。そしてラオたちと共に生きたから。対してロボットは規格通りに製造され、人間や人格AIと接しても、カーラのように生死を思うような変化は見せない。見せればそれは欠陥とされる。

(人格を持たなければ、こんな思いは…。)
カーラは首を振った。そしてもう一度動かぬロボットに目をやった後、
「もういいぞ。」と処理ロボットに声をかけた。

(さて、メシでも作ってやるか。)三人分の食事を作りに、厨房へ向かった。

***

ボドの部屋で、レナはトキアと再会しようとしていた。

ボドが鉛玉にススッと手をかざして往復させると、玉は割れてクリスタルが現れた。ボドが指先で光を注ぐと、徐々にクワントの意識が戻ってきた。
「??…!」

飛び出して逃げようとするトキアのクリスタルを、レナがさっと捕まえる。
「…ウィルキマルティ副統領!」
「あー、その肩書きはもういいから。ウソくさいし。」

「どういうことです?」
トキアは混乱。それはそうだろう。記憶は港で封鎖された時までしか無い。
「私は逃げ出したの。それで今はここの居候。」
脱出4

「やはり、お子さんのことが…。」

「おしゃべりめ。」レナはクリスタルを強く握りしめた。
ボドに向き直って言う。
「聞かれてしまったものは仕方がありません。」

ボドは沈黙したまま、気の毒そうな半眼でレナを見ている。
「私、パトルとの間に、息子が居ましてね。殺されました。パトルに。」
「…。」

「彼も好きでそうしたんじゃないとは、思います。元宇宙でも、同じようなことがあったようですし。」
「…。」

「済みませんね。こんな話。」

「いえ。お話しなさい。私もあなたの苦痛を、想いましょう。」
「ありがとうございます。でも、もういいです。…ただ、信じて下さい。私はみなさんをだますために、ここに来たのではないのです。」

「ええ、受け入れましょう。過ぎたことはもはや返りませんが、ここであなたの心が癒されることを、願っています。」
ほろ、とレナの涙がこぼれた。

カーンティが駆け寄り、後ろからレナを抱く。その手を握りしめ、レナは泣く。
「…。」身も世もないような、子供のようなき声。人類を飛躍させた偉人でも、宇宙超越者でも、星系指折りの権力者でもない。

ボドは半眼で、じっと見ていた。

***

意識が戻ったアルファーは、自室で静養している。

ラオは頻繁に訪ねてくるが、アルファーは二度に一度は追い返しもした。身の回りの世話にはカーンティが来るが、こちらを追い返さないのは言うまでもない。カーンティは以前の恩返しとばかり、献身的にアルファーの世話をしている。

「私、アルファーさんのお世話が出来て、嬉しいです。」
そう言ってカーンティは、ベッドの上にセットしたテーブルに、剥いた小さな桃を載せた。「これは…。」とアルファー。

「実ったんですよアルファーさんが育ててた桃。マーイさんたちが世話してたんですけど、最初に食べて貰おうと思って…。」
「ありがとう、カーンティちゃん。」
脱出5

アルファーは皿の桃をフォークで取り、ぱく、と口に入れる。

「できるのは今のところ、お世話だけですけど。」
「ん? どういうこと?」
「私、アルファーさんのような、大人じゃないですもん。」

ふふ、あははとアルファーが笑った。「おかしいですか?」とカーンティ。
「…ごめんごめん、カーンティちゃん。」アルファーは口をぬぐう。
「--私らAIって、義体しか持てないでしょ?」「ええ。」

「人間は一旦生身で生まれるから、精神は体に導かれて成長できるけど、AIは、自力で成長するしかないよね。」「そうですね。」
「私、アルファ姉さんの記憶を継いで、十億年は生きてるつもりだったけど。」

「--やっぱりこの外見に近い精神の成長って、出来てなかったのね。」

「うーん、それを言えば私も、思うままの外見で生まれるよう言われて、この姿なんです。何かになろうとか、そんなこと思いませんでした。それでも、自分はもっと大人であれたらとか、もっと子供であれたらとか、時々思いますもん。」

「ふーん。カーンティちゃんも、心と体のすれ違いに悩むのね。」
「ええそりゃ。んーとどういうことかな? 人間?」
「人間は、どう思うのかしらね。特に、男!」

「うふっ。」「うふっ。」「「あはははは。」」
笑い声は、アルファーを訪ねようとしたラオにも聞こえた。とても入る気分になれない。すごすごと帰るが、女性の部屋から閉め出される男がみっともないのは。

この新宇宙でも変わらない。(面倒くさくなったなぁ…アルファー。)
脱出6

***

ミルヒ・クー号は、最後の突入から脱出しようとしていた。

船は激しく揺さぶられる。舵の効きが悪く、大気のやや厚い層に突っ込んでしまったようだ。みるみる速度が落ちる。サーラはありったけエンジンを吹かしている。だがそれもむなしく、じわじわと速度が下がっていく。

「機関室! もっとパワー上げられないか!」「限界です船長!」
「一基二基吹き飛んでもいい。回路をつなぎ替えろ!」
「了解しました!」

サーラは無傷で帰還するのをあきらめる。ここでいくつかエンジンを捨てても、軌道速度を失い木星に引き込まれるよりはいい。すでに視界は悪くなっている。電磁波探査だけが頼り。だが今ここ、ここだけを切り抜ければ帰れる。

「5番6番、オーバーロード可能です!」とガマ。

「よし。吹き上がれェ!」サーラは破損覚悟でパワーを入れる。その頃ガマは機関室で、船体の装甲温度を監視しながら、吸熱素子の配分を刻々と変えている。5、6番エンジンに素子を回したため、まんべんなく配分するほどの余裕は無い。

素子生産プラントも全開だが、吸熱して消える素子に追いつかない。それでも二人の努力が実を結び、徐々に速度が上がり始める。そこへ。
「デブリ接近中。30秒で最接近。」とカーラ。「!」

サーラが舵を切ろうとする。速度はまた落ちるがやむを得ない。
「船長。」「何だ!」
「このまま進むのを進言。直近で、破砕します。」「よかろう!」
脱出7

カン、カンとサーラがレバーを倒し7・8番エンジンの定格制限弁を解除した。

カーラが反物質砲のトリガーに手を掛ける。照準ウインドウを開き、凝視。
「進路、そのまま。増速に専念して下さい。」「了解!」
刻々とデブリが迫る。かなり大きい。微細な衛星か、それとも輪の残骸か。

アンモニアを多分に含んだ濃い大気に、その姿は可視光では見えない。電磁波観測を可視化したディスプレイに、ごつごつとした氷片が回りながら近付いてくる。
「船長、上げ舵!」「了解!」

シュゴー、シュゴーと、大型スラスタが火を噴き、クジラが頭をやや上げた。だが突き出したスラスタはその分大気にこすられる。熱に溶かされ、崩れてちぎれ飛ぶ。偏ったスラスタに、操船の難度が高まった。だがそれは覚悟の上。なのに。

「!」「ここまで来て!」サーラとカーラは同時に気付いた。

二つめのデブリが下から打ち上げるように接近している。カーラがためらわず1つ目のデブリに反物質砲を放ち、照準をレーザーに切り替える。
「死んで、たまるかぁぁぁ!」サーラが制御盤ではなく操縦桿を手に取った。

ぐい、と動かすとクジラは横に傾き、2つ目のデブリを避けようとする。だが一瞬の差でデブリの方が早かった。それが衝突すると思えた寸前。パッ、とレーザーの当たったデブリが飛び散った。

レーザーもまた熱に溶かされて吹き飛ばされる。小片がミルヒ・クー号の装甲にバラバラと当たる。だが破砕も落下も免れた。雲のような大気を後ろに引きながら、クジラは木星を遠ざかる。サーラは手を操縦桿に貼り付かせたまま。
脱出8

意味もなく振り返った。

後書き


天才科学者で美女でそこそこ人格はまとも、というレナ博士でありやすが、こういうおひとはそれゆえに、かわいそうなことになりやすいんでございましょうか。じかには知りやせんが、史上ずいぶんとおいでだったようでございやす。
ツンケンしてるのも一生懸命に、あたしにゃあ思えます。実際可愛いおひとなんでやすよ。どうぞ長い目で、見てやってくだせえまし。
脱出9

作者九去堂敬白。

参考動画




御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
Arigatogozaimashita. Thank you. I remember you.
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