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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  5.セレス編/40.歌声 

 

ガシャコン…ガシャコン…。
歌声1

工業プラント・カンテンでは、ロボット兵を製造中。天才レナ博士の自信作。防護服無しで大気圏外活動でき、水に浮き、出力はラオ設計の義体より10%増。効率的な小柄の体、胸とお尻が大きい。ラオは男性型でいいのではと言ったのだが。


「水に浮かなくなるけど、いいの?」
なにやら複雑なアルファーの視線を受けて、レナに同意した。今生産ライン上を順番に組み立てられ、最終工程でAIプログラムを実装される。

東洋系の端正な容貌。起き上がると紺色の髪を自分でまとめる。ただし自我はなく、顔はみな同じ。レナにも、300体もの顔バリエーションを持たせるのは無理だった。「変えてもいいけど意味がないわね」と彼女は言い切った。

その代わり当初の予定100体が、3倍にまで膨れている。

これで守備隊は全1個大隊、100名の3個中隊が編成できる。一方ラオは、ボドに伴われカーラ・アルファー・カーンティと共に、ソピアの部屋を訪ねていた。守備隊全体の隊長はワーレかカーラが務めるとして、部隊長の人格AIが三人欲しい。

それはボドが生成するとして、ソピアの協力が必要になった。
「ソピアさん。」とボド。「はい。」とソピア。
「あなたはラオ先生の記憶を全てお持ちです。アルファーさんの管理力もです。」

「--これにカーラの戦闘力が加われば、すばらしい指揮AIが生まれるはずです。」「はい。」
「ただし、ただお二人のデータを足すだけでは難しいでしょう。」

個性を持った以上、自我エゴと自我は互いに干渉し合う。

自分でないものを自分と認めるのは不可能。だからクワントの融合が必要になる。少し疲れはするが、両者のエゴも記憶も、そのまま保てる。ボドはそれをソピアに望んだ。「はい。先生がそう仰るなら。」と、彼女は受け入れた。

「ではお願いします。方法はカーラに全て、任せて下さい。」「はい。」
カーラが近寄った。ソピアはザブトンに座っている。カーラも座った。ソピアの頬にカーラは両手を添えた。そして目を見つめ、いきなり。「!」
歌声2

義体は呼吸なしで生きていけるが、普段は呼吸していた。今は口で呼吸できない。
「んん。ん。」
義体には生体と同じく、腕が二本ある。腕というのは不思議なもので。

眼前の相手と応じるように動くらしい。始めは探るようにちぐはぐでも。

やがて互いに手と手を合わせ、あるいは指を絡めるのも大いにあり得る。右は左と左は右と。「あ。う。」
義体には生体と同じく、腕が二本ある。人間はじっとしているのが苦手な動物。

腕や足は何かを求め、せわしなく動く。それは義体も変わらない。そして女性の義体は理の当然として、腰が細くできている。二人の腰も、また細い。腕を回し後ろで組むことさえも、出来ないことではないだろう。「ああっ。」

義体には生体と同じく、腕が二本ある。人間は何かされるだけというのをいやがる生き物で、それはAIも変わらない。不意うちに相手の肩をつかむのも、ありえないことではないだろう。条件によっては、強くつかんで爪を立てることさえも。

「あん。」

二人は心拍呼吸が上がったようだ。息がしづらいから無理もない。顔色がほんのり桃色に。だがどういう作用機序であろう。すばらしきかなAI義体。ここまで生体に近づいたとは。無慮数十万年の人類の英知。努力の結晶。万々歳。

アルファーはしかと見入っている。カーンティは手で顔を覆うが、指のスキマは開いている。いろんな声がし音がした。一番オドオドしていたのは実はラオ。(仁者はビビらないもんじゃよ)という、いにしえの賢者の言葉で自分を支えた。

やがて二人は離れた。平均秒速5cmほどか。人間の口腔は液体で潤され、液体は若干の粘度を伴っている。糸を引くのもまた当然。それは義体も変わらない。今二人は荒い呼吸でバタリと倒れ、目が潤み表情はもうろう、ただ天井を見上げている。
歌声3(2)

ぽよよん。二人の口から光の粒が出る。

それは互いに近づき、しばらく警戒するようにふらふら回り合うが、程なく一体化して漂った。一切を見ていた半眼のボドが、指を立てて粒をまねく。先に止まるとボドは光の粒を、自分の額に当てた。

目を閉じ再びくわと見開いた時、ス・ス・スと、額からクワントが飛び出した。ラオはボドとうなずき合うと、三名のクワントに名前を付けた。
「君は、オキノ。」「君は、ナガラ。」「君は、ヒメノ。」

「「「はい、ありがとうございます、ラオ先生。」」」
「私の名は、オキノ。」「ナガラ。」「ヒメノ。」
「「「戦いの指揮者。」」」「「「止まろうとする者にして、守る者。」」」

三人の指揮AIが、誕生した。

***

AI義体の生成室は、工業プラント・カンテン内に移されている。

オキノ、ナガラ、ヒメノはカプセル内で、自分の思うままの姿を得た。オキノは黒髪黒瞳浅黒肌。砂漠の風を感じさせる。ナガラは金髪青瞳白肌。典型的なブロンドで、目が冷たい。ヒメノは茶髪茶瞳浅黄肌。丸く大きな目に、丸い顔。
歌声4

三人を前にして、カーラとワーレが言い合っている。
「隊長は貴様がやれ。なにせ戦闘AIだ。」とワーレ。
「お前はどうするのだ?」とカーラ。

「もちろん、訓練は見てやる。だがな、私は厨房を預かっている。」
「ああ、それもそうか。」
というわけで守備隊長はカーラにあっさり決まる。

ワーレは教官として訓練に当たることに。二人は300体のロボット兵を預かる。

そして三人の部隊長にそれぞれ割り当てる。体育館に全員を整列させた。クワント一同にとっては初めてのお祭り騒ぎ。だから揃って見に来ると。
「なんでしょう。太古の王の墓にこんなのがあったような…。」とゼルタ。

「あれはちゃんと一体一体、顔変えてあるよ。」とヴィタ。
「やっぱり、顔変えた方が良かったかしら。」とレナ。
「え? 博士がそう仰るんですか?」とラオ。

歌声5
「見分けが、つきません。」とカーンティ。「どうしましょう。」とアルファー。
パンパン。ワーレが手を叩いた。「あー兵士諸君。任務の第一号は名札だ。」
オキノ隊、ナガラ隊、ヒメノ隊、それぞれ前から順に1号2号と名を付ける。

ざわざわとロボット兵が動き出す。名札を受け取り、名前を書く。

彼女たちはワーレが用意した、カーキ色のピロトカ・ルパシカに紺の箱スカートを着けている。胸に名札を止め、再び整列した。ワーレとカーラの姿も同じ。だが、二人の肩のエポレットには、線が二本と桃花が一つ。大隊長=少佐。

オキノたちは線一本に桃花三つ。中隊長=大尉を示す。兵士は無地。おいおい訓練によって差が出てきたら、練度の高い者を強化して、下士官にするつもり。
「今日の所はまあ、こんなものです。これから鍛えに、鍛えます。」とワーレ。

「よろしく、頼むよ。」とラオ。
「んまあお前ェが教官なら問題ねえだろうよ。しっかり、やんな。」とロミ。
ボドは満足そうに見つめている。

わいわいがやがや。300の女声がその背後にある。

***

♪パッパラッパパッパラッパパッパラッパパパ。ワーレの忙しい一日が始まった。
歌声6(2)

兵舎は遠いが居住区とはつながっている。港ともつながっている。北の国の操典で軍を編成したワーレだが、ラッパ譜はイチゴ船団と同じにした。北の起床ラッパを鳴らしたところ、二度寝を始めるロボット水夫が出たからである。

厨房で仕込みを済ませてからワーレは、体育館に向かう。三人の中隊長が各隊を整列させている。ワーレは一日の予定を指示する。カーラは黙って見ているだけで、ほとんど言葉を話さない。点呼を済ませると中隊ごとに、一日の教練が始まる。

一隊は右向け右などの基本教練、一隊は徒手格闘と武器術、一隊は座学。半日で入れ替え、午前中ワーレは各隊を回る。ロボット相手だから、怒鳴り蹴る必要はない。作動不良はレナのラボ送り。カーラは別の隊を回り、技を見せて手本になる。

昼過ぎにワーレは厨房に帰る。セレスの一同は一日一食しかしない。

だからこういう兼任も可能だった。終業点呼はカーラがする。レナも見に来る。終われば兵は当直を残し、ぞろぞろ兵舎に帰っていく。中隊長も一人は当直、残りの二人は居住区の自室に帰る。そんなこんなで半年が過ぎた。

ラオとボドたちは月設置作業に忙しく、ロミたちはミルヒ・クー号の修理に忙しい。ガマは水素採集プラントを開発していた。それでほとんど体育館も、兵舎も訪れたことがない。だがある日、歌声がするのをラオは聞いた。

Этотエータ маршマルシ неニェ смолкалスマカール на перронахペローナフ~。
勇壮だがどこか悲しげな、胸を打つ歌声だった。嫌いな歌はあっても、歌の嫌いな人間はいない。美しく感じる響きは整数比で表せる。図形に直せば端正だろう。

数的調和ハルモニア。調和した宇宙は美しい。誰もが調和を喜び近づく。

その歌に引き込まれて、ラオは体育館に向かう。アルファーもあとに付いてきた。近付くにつれて歌声が止み、ザク、ザクという装甲長靴の足音。全員で、行進訓練をしているらしい。二人は少しドキドキしながら体育館に入る。そのとたん。

Смирноスミェールナ!」(気をつけ!)
先頭を歩くワーレが号令を掛け、立ち止まって二人に敬礼した。ザッ、とロボット兵が一斉に足を止め、二人に注目する。300×2の視線の威力。
歌声7(2)

ちょっと経験がないと分かりづらい。それもみんな同じ顔。ラオとアルファーはもちろん気圧された。
「あ…ああ、かまわない。訓練を続けてくれ。」とラオ。

「は。」とワーレが応じる。

Маршマールシ!」(進め!)号令を掛けるワーレ。
ザ、ザ、と300人が一斉に足を上げる。次々とラオとアルファー、カーラの前を通り過ぎる。ピロトカをかぶりルパシカを着、戦闘杖を担っている。

直前まで三人に注目し、通り過ぎると前を向く。一糸乱れぬ行進は、ロボット兵だからこそ? 隊列は体育館を回り、再び近付いてくる。ワーレが歌い始めた。
「♪Встаньフスターニ за Веруウェルー, Нашаナーシャ земляゼムリャ!」(立て、つつとれ、国守れ!)

全員が応じて、行進しながら歌い始めた。


Этотエータ маршマルシ неニェ смолкалスマカール на перронахペローナフ,
Когдаカークダ врагウラー застилалザスチパール горизонтガーリゾーント.
Сスィ нимニム отцовアツォーフ нашихナーシフ, в пыльныхピーリニフ вагонахワゴーナフ
Поезадаパエズダー увозилиウワジーリ на фронтフローント.
「駅に満ちたるつわものは
かたきの迫るなれば。
父祖も荒れたる貨車に乗り
いくさへと赴けり。」
歌声8(2)

Наступаетナストパイェト минутаミヌータ прощанияプラシャーニヤ,
Тыティ глядишьグラディーシャ мнеムニェ тревожноトゥレボージナ в глазаグラーザ,
И ловлюラウリュー я родноеラドノエ дыханиеディハーニェ,
А вдалиウダーリ ужеウジェ дышитディシット грозаグラザー.
「今ぞ別れの時来る
交わす瞳と瞳。
我が聞くは祖国の息吹
迫る嵐の叫び。」

И еслиイェスリ в походパホード
Странаストラナー позовётパサビョート,
За крайクラーイ нашナーシ роднойラドノイ,
Мыムィ всеフシェー пойдёмパイジョム в священныйスビャシェンニィ бойボイ!
「いざ征かん
祖国は呼べり。
いざ征かん
魔軍の迫るとも!」

気付けばボドとロミ、レナも来た。歌声に呼び寄せられたのだろう。一同は、今まで感じたことのない気分。この気持ちは何だろう。遠い記憶を呼び起こすように、歌声が美しい。そういえば今まで、音楽がなかった。歌は万人の心をうつ。

アルファーは気付けば、共に歌っていた。

後書き


ルパシカ・ピロトカてえのは、でえてえこんな格好でごぜえやす。
歌声9
作図にものすごく手間がかかるので、以降は右の、出来合いの軍服っぽいので代用させて頂きやす。
オリーブグリーンとロイヤルブルーの配色は、帝政ロシア期の、コサック騎兵の制服以来でやす。パッと見’だせェ’と思いがちですが、シャガールとカンディンスキー出したお国でごぜえやすから、なかなかあなどれませぬ。

歌は有名な「スラヴの娘の別れ」でございやす。歌詞にはバージョンが様々あり、著作権切れもしくは著作者不明のを記し、一部改めやしたが、問題あれば削除致しやす。何と言ってもロシアの民衆の中から出てきた、古い古い文化遺産でございやして。訳は作者自身でごぜえやす。歌えるように訳し、しかも雰囲気を損なわないとなると、文語が便利でございやしてねえ。

空耳も筆者でごぜえやすが、ロシア語の歌って、辞書通りにゃ歌えねえんですよ。かのアレクサンドロフ合唱団も、どんなCD何度聞いたって、辞書通りにゃ歌ってねえですし。東外大の東郷正延先生は、「それでいいのだよ」と仰っておられやした。

作者九去堂敬白。

御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
Arigatogozaimashita. Thank you. I remember you.
カーラの髪拝借:
ねここ
ベレー帽元データ拝借:
あっとあとみっく
水兵帽風味制帽元データ拝借:
ChoiMinYeon
信号ラッパ拝借:
整備班長@http://diagraph01.net/index.html
ロッド(TOA)拝借:
9639派@Same さん


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