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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  5.セレス編/44.化粧 

 

「ねえカーンティーちゃん。どうして候補生になったの?」とゼルタ。
化粧1

準惑星ルナに向かっているミルヒ・クー号の船内で、ゼルタを加えた三人が、並んで座っていた。ロクデナシ号と違い貨物船のこの船は、重力区画を特に設けず、必要なら船ごと回転しながら進む。今はルナの重力に合わせていた。

大きな目をくるりと上に向けてカーンティは答えを考える。(やっぱ可愛いわ~この子)と、ゼルタは羨望の思いを禁じ得ない。物理年齢はほとんど同じ三人だが、ゼルタと並ぶとカーンティは、年の離れた妹より、若い母親の娘に見える。

一方ヴィタと並ぶとカーンティは、姉妹のように見える。三人は共に作業服を着、候補生の記章を付けていた。教官はサーラ。マーイが農業に忙しくセレスに残り、機関長はサーラが兼務中。候補生の機関実習も、彼女が教える。

「船長さんが勧めたから、かな?」三人は今日の実習を終えたばかり。

「カーンティちゃんって、おとなしいというか、受け身よね~。」
ヴィタはメガネレンチに指を突っ込み、器用にくるくる回しながら言った。
「そんな風には、思ってないですけど。」とカーンティ。

「私らがロクデナシ号でうろちょろしてた時も、おとなしくボド先生と船室にいたし。ねえカーンティちゃん、あなたって何かになろうとか、そうは思わないの?」
「特には、ですねえ。」と、思いもしていなかった、という顔。

「--なんででしょうね。…う~んとそうだなあ、父のそばにいると、何かにならなきゃ、とか思わないんですよね。」
「「あー。」」

常に微笑みをたたえた半眼でいるボドを思えば、納得してしまうヴィタとゼルタ。

「でもそれなりに、忙しくは、してたんですけどね。」とカーンティ。
確かに彼女は、特定の仕事を受け持ったことはほとんど無いが、アルファーの看護をしたり、ワーレの厨房を手伝ったり、マーイと農作業にいそしんだりしていた。

守備隊の食堂は出港直前まで、彼女が管理してもいた。
「カーンティちゃんって、器用よね。」とゼルタ。
「え? そうですか?」

「うん。今の実習でも、うまく出来ちゃうじゃない? うらやましいわ。」
「そうそう。」とヴィタ。
「--ゼルタ、あんたさっき、何度やっても失敗してたよね~! ひゃっひゃっ。」

「うるさいわね!」

今日の実習は、メビウスの歯車の組み立て。歯のついた螺旋状のメビウスの輪と輪の間に、小さな遊星歯車がいくつも挟まれている。単純に見えて常人なら頭を抱えてしまう複雑な機構だが、AIである彼女たちには、数学的理解はたやすい。
化粧2

だが、組み立てられるかとなると、話は別。カーンティはばらばらの部品をじーっと見た後、サクサクと組み立てに入り、ヴィタはあれこれ部品をいじくり回すと、突然ひらめいて組み立てた。ゼルタは台座から一つ一つ組んでいたが。

途中でバラバラになったり、歯車をヤスリで過修正してダメにしてしまったり。泣く思いでやっと組み上げた。しかしヴィタとカーンティが「面白~い」と言いつつ回して遊んでいる横で、少し回すとまたバラバラになってしまった。

「万能娘?」とヴィタ。

「はは、そんな。そんなんじゃないですよ。」とカーンティ。
「カーンティちゃんのエゴっていくつあるの?」とゼルタ。
「自分でも、わからないんですよね。たぶん2ケタは、無いと思うんですけど。」

「でも、私らの3本よりは多そうね。」とゼルタ。
「あんたは1本とかに退化してるんじゃない? ひゃっひゃっひゃ。」とヴィタ。
「オウ! てめえ!」と怒るゼルタ。

「--こかぁガマと了見がチクとうがよ、てめえはいっぺん、スパナぁでも食らった方が!」と立ち上がった。
「あら。2本目がちゃんといたねえ。」

そう言うとヴィタは、指を差し込んでいたレンチを振った。

ヒュッ、とゼルタの顔に飛び、寸前でつかみ取ったゼルタ。「こ…この!」
「あーおばちゃんが怒ったー! こわいー!」
「おば…。」わなわなと震えるゼルタ。

「--もっぺん言ってみゃあがれー!」
とレンチを振り上げ、ヴィタにつかみかかる。立てば首一つ分はゼルタの方が体は大きい。それでも「やるかあ」と応じようとヴィタが身構えたところで。

「こら何をやっている! 仕事道具を大事にしろとあれほど…。」
実習室を出てきたサーラに見つかった。ゼルタよりさらに首一つ分大きいサーラは、指を組み合わせてポキポキ言わせながら、ずかずかと近寄ってくる。
化粧3

「--船外でモップがけさせるぞ! とりあえず床に正座!」

***

「♪エイホ~エンム。エイホ~エンム。」


セレスの薄い大気に古い船曳き歌が響く。歌っているのはナガラ隊の隊員。身には軽防護服とヘルメット、防護スパッツと装甲ブーツをはいた彼女たちが、重機に乗り、あるいは仮組みされたラインに取り付き、パイプラインを建設している。

防護服なしで宇宙空間活動できる彼女たちだが、防護服があった方がお肌によい。箱スカートの下にスパッツ、それにブーツという、いにしえの日の出の国の、北国の女子中学生みたいな格好をした彼女たちが、セレスの軽い重力の上を飛び回る。

「よし、これなら予定通り5年で出来そうだな。」とナガラ。冷徹な目がそう見積もる。100名の隊員を、4つの現場に分けた。建材は半完成状態で工業プラント・カンテンから、すでに引き終わったライン内のリニアで運ばれてくる。

ラインを跨ぐような、巨大な組み立てマシンが動く。

時速ザチャース90ジビェノースチm。」マシンを監視していた隊員が、敷設速度を読み上げる。
全長6300kmになる、十字に交差してセレスを巻く二つの輪。その建設は過酷ではあるが、彼女たちはつらい筋肉労働をしているわけではない。

重機に乗る者も乗らない者も、作業の中心は監視。
基礎工事イリザクラートカはどうかフンダーメンタハラショー?」
ナガラが報告を求める。セレスには4000mの氷火山もあれば、クレーターもある。

パイプ設置より整地の方が大変。だが巨大なビーム自走砲が先行し、山をえぐり谷に坂道を切り開いている。水素とリアクターあればこそ。
はいダース順調でありますブラーガプリーヤトニ。」
化粧4(2)

大尉殿タワリシチカピタン。」「ん?」「ラオ大佐がおいでですパルコフニクプリシェル。」

見れば珍しくクリスタルの状態で、ラオが飛んできた。同じくクリスタルのソピアを伴っている。居住区と工事現場との往復は宇宙機でも良いし、リニアに同乗してもいいが、義体を置いてクワントだけで、クリスタルに乗って飛んだ方が早い。

「こんにちは、ナガラ。事故はないかい?」「はい。ただいまの所は。」
いかにもぽっと作ったような、でこぼこした粒状のクリスタルに乗ったラオ。演算力の高いラオは、クリスタルの機構に頼らなくても飛び回れる。

「苦労を掛けるね。予定通り交代してもらうからね。」
工事は居住区近くのガマの実験棟、’ガマドーム’の建設に当たっているヒメノ隊と、一ヶ月間隔で任地を交代していた。

その間、隊員たちはパイプ内の仮居住ユニットで暮らす。

カプセルベッドは兵舎と変わらないが、食事は電気と補給キューブだけ、入浴もシャワーでしかできない。「お気遣いありがとうございます。」とナガラ。
「彼女たちもきちんと食事を摂り、温泉に入ると士気が上がりますので。」

「ごもっとも。でも礼ならワーレや、博士やアルファーに言っておあげ。…所でナガラ、ソピアに現場を見せてやってくれないか。」
傍らのソピアは、ラオが与えた標準的なクリスタルに収まっている。

「--この子には、出来るだけたくさんの人や場所を見せてあげたいんだ。」
「わかりました。さ、どうぞソピアさん。危険ですから、私のそばを離れないで下さいね。」冷徹なナガラの目が、やや緩む。

「はい。お願いします。」クリスタルに収まったソピアが、ナガラにくっついた。

***

そのころソピアの図書室。
化粧5

机を前に座ったまま目を開け、じっと動かないソピアの義体の前に、ガマがいた。ガマは最近、化粧というものを知った。素肌のままで十分美しい彼女たちだが、卒業式の際にサーラとマーイが少し装っていたのを、真似してみたくなった。

だが自分で鏡に向かって化粧しても、どうしてもマーイたちのようにならない。ルージュもアイシャドウも、つい、塗りすぎてしまうのだ。たまたま工学情報を求めて図書室に来たガマは、これ幸いと、ソピアの義体での実習を思い立った。

いそいそと自室に戻ってコスメを持ち帰る。タブレットで検索した、過去の女性たちの姿を参考にしながら、ぺたぺたとコスメを塗りつけていく。
「は~いソピアちゃ~ん。いま綺麗にしてあげるからね~。」

言い訳を言って自分の不安を誤魔化す。

「--ソピアちゃんって肌きれい! …年齢の差?」ファンデーションを取り出す。
「--でもやっぱ引き籠もり? 肌が白いよねえ。」
ファンデーションをペタペタ塗りつける。

頭が工学系の彼女は、塗装は厚い方がいいと思っている。
「--こんなもんかなぁ。あ、しまった。」
アイシャドウがずれて、まぶたに黒い線がはみ出る。

「--えい、塗っちゃえ。」
まぶた全体を塗りつぶすことにする。
「--ルージュは、こうかな?」

塗色は原色がいいと、これも工学系の知能が言った。
化粧6

「--やっぱくちびるは赤よねえ!」
男性ラオの記憶が元になっている彼女の知識には、素肌仕上げという概念がない。
「--ウィッグも付けようか!」

ソピアの栗色の髪に、ばさりと黒い長髪のカツラを載せる。どこで入手したのであろう。
「--せっかくだからこの際、つけまつ毛も!」ピンセットでまぶたに貼る。

「--仕上げはまゆね。でもバランスというものが…。」
バランスではない。化粧はハーモニーだ。ガマはこれまたはっきりと、ソピアの眉を塗った。

「--出来た! …でも最初思ってたのと違う。」

前から横から、しげしげとソピアの義体を眺めるガマ。
そこへ「コンコン。」とノックの音。「!」
「ソピアちゃ~ん、居る?」

マーイだ。
図書室に出入り口は一つしかない。ガマはあたふたと、机の裏へ隠れる。
「--ソピアちゃ~ん。レナ先生がお呼びよ~。」

「--義体のメンテするって。ソピアちゃ~ん。入るわよ~。」
図書室は公室だから、施錠されていなければ声も掛けず、誰でも入っていい事になっている。だが立ち居振る舞いが優雅なマーイは、あえてここで声を掛けた。
化粧7

入ったマーイはただならぬものを見る。「--まあ、クレオパトラ?」

後書き


「船曳き歌」は、「Эй, ухнем(ヴォルガの舟歌)」を想定しておりやす。

…悪ノリしてソピアの机上を、平野耕太先生のパクリにしてしまいやした。
ナー**ナーナナ。反省しておりやす。

’自走砲’と書いても、初稿時には’自走砲の一部としてなんとか見てもらいたいモノ’を、一から描くのが精一杯でやした。

化粧8
このようにガルパンもどきが出力出来るようになったのは、9章も書き終えた頃の事でごぜえやす。

作者九去堂敬白。

参考動画



※バイオスフィア2…地球環境を閉鎖空間で模倣した研究施設。

御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
Arigatogozaimashita. Thank you. I remember you.
Спасибо. Я не забуду тебя.
メビウスの歯車拝借:
http://blog.goo.ne.jp/nekotop_001
ポット拝借:
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¥みづ@漫画素材BOX
自走砲拝借:
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