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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  5.セレス編/45.消毒 

 

存外早く、ソピアはガマのいたずらを知った。

工事現場を見学した後、ソピアは図書室のスパコンとつながった。図書室は自室でなく公室で、それゆえスパコンは一切を見ている。ソピアは情報の差異分に一部始終の立体映像があるのを見て、はらわたが煮えくりかえった。

消毒1
(ガマあ!)怒りを増幅させながら、図書室に文字通り飛んで帰る。一方ガマは、マーイにたしなめられた後、手伝って貰い化粧を落とした。「ちゃんとソピアちゃんに謝るのよ」と言われたが、ソピアの怒りを思うと、自分から言い出せない。

それでも気になって図書室を訪れると、義体が稼働していた。「ガマっ!」ソピアはガマの腕を取ると、図書室に引きずり込んだ。ソピアの体は若干大きい。体重差に負けて後ろから締め上げられ、額にレナの作った検診棒を当てられた。

「ああああ~!」

電流が流し込まれる。ソピアは無言で図書室をロックし、外部とのリンクも切断すると、さらに電流を当てた。ソピアはラオの技能を全て知っている。義体の脱力化もその一つ。だがボドの’シヤワセ’と違い、猛烈な不快感を相手に与える。

ガマが崩れ落ちた。「ご…ごめんなさい! 私、悪気はなかったのよ!」
「悪気が無くて、私の体に好き放題したのね。」
「あ…あの、綺麗にしてあげようかと思って…。」

「へえ。いい事をした、とでも言うのね。」
ソピアは青ざめたガマを、硬い床に転ばせた。検診棒の先端がパルス状に光る。
「--じゃあ私も、あなたの体でいい事をさせて貰うわ。」

「何…するの?」

「私ねえ、義体の観察ってしてみたかったんだ。自分で自分の体を見ても、よく見えないしね。情報担当なんだから、義体もよく知らないとねえ。」
ソピアにはラオに与えられた情報はあるが、経験は、ない。

消毒2
ソピアは出力を上げた検診棒を、今度はガマの体にねじ当てる。
「きゃあああ!」
「あれ、おかしいな。情報と事実が違う。」

「やめてぇ! 気持ち悪いよ!」
「え? そうなの。ではどうやれば気持ちいいのかしら!」
ぐい、と別の場所に検診棒をねじ当て、さらに出力を上げる。

「ああああ!」

「ねえどうなの、言いなさいよ。わかんないじゃない!」
電光がガマを包み、ガマはびくびくと痙攣する。
「た…助けてマーイさん。ラオ先生!」やっと声を絞り出して言った。

「無駄よ。ちゃんとロックしてあるわ。」
「あーっ!」ついにガマは泣きだした。
はっと我に返ったソピアは、改めてガマを見直す。

スッと検診棒の上に立ち上がったウインドウが、あちこちオレンジになっている。いくつかが赤に変わり始めた。見ればガマは体を痙攣させて、ひく、ひくと声も立てられずに口をパクパクさせている。目からは涙を流していた。

(しまった! どうしよう!)

***

(どう、話したものか…。)

ラオが沈鬱な表情で、自室のソファーに座っている。隣はアルファー、向かいはガマとソピア。ソピアが慌ててレナを呼び、ガマが回復した後で博士は、ラオに一部始終を話すようきつく言った。二人は並んではいるが、間を開けて座っている。

「ガマ。ソピア。」
「「はい。」」
「人間と、それ以外との違いは、何だろう?」

消毒3
二人のクワント内に、さっとベン図が描かれる。’それ以外’には動植物だけでなく、細菌などあらゆる微生物、天体、物質、形を持たない概念などが入った。
「「打算のない愛情を持てることです。」」

「うん。教えたことをよく覚えていた。」一旦褒めるラオ。

「--じゃあ、打算のない愛情、つまりじんは、他にどんな言葉で言えるだろう?」
言われたことをただ棒暗記するのはたやすい。(それは何か?)との自問で、暗記が理解に変わっていく。

「「…。」」
「難しかったかな。じゃあ、これは仁だ、と思った経験はあるかな?」
ソピアは思いつかず黙っていた。ガマが言った。

「マーイさんの、マシンの手入れです。」
(はっ!)ソピアも気付いて言った。
「カーラさんの、思いやりです。図書室を作ってくれたのはカーラさんです。」

「うん、そうだね。じゃあマーイさんとカーラは、なぜそうしたのだろう?」

「「…かわいそう、だから?」」
「そう。よく気がついた。サーラも、同じことを言ったそうだね。マシンは、かわいそうだって。そんなサーラだから、木星から帰ってこれたんだと私は思う。」

「--そしてカーラは、ソピアがかわいそうで、図書室を建ててくれたんだね。」
「「はい。」」
「ガマ。」「はい。」

「動かないソピアの義体を見て、君はかわいそう、とは思わなかったね。」
「はい。でも私がしたのは、ソピアのような、ひどいことではないです!」
ソピアがむっとしてガマを睨む。

「そうか。そうだね。」(え、何で!)という表情でソピアがラオを見た。
消毒4

「ソピア。」「はい。」
「様子を見に来たガマを見て君は、かわいそう、とは思いつかなかったね。」
「はい。でも、はじめにひどいことをしたのはガマです!」

「その通りだね。でもガマが泣きだして、君はかわいそう、と気付いたね。」
「はい…。」
「ガマ。」「はい。」

「君はそんなひどいことをしたとは思っていなかった。でもソピアがそこまでの事をするぐらい、ソピアにとってはひどいことだったんだ。」
「…はい。」ガマがしぶしぶ返事をした。

「人の好悪や善悪の感情は、当人にしか分からない。」

「「はい。」」言われるままにうべなう二人。
「だから人間に出来るのは、うれしがっている、楽しんでいる、悲しがっている、痛がっているというのを、想像することだけなんだ。」

「「はい。」」二人はうなずいたが、納得した顔ではない。
「…痛みは、物理量として記述できない。知っているね?」
「「はい。」」これはうなずかざるを得ない。

「だから誰かの気持ちは、その人に無関心だと、わからないね。」
「「はい。」」模範解答を見せられたような顔の二人。
「ガマ。」「はい。」

「ソピアは君より体は大きいけど、幼い。幼い相手は抵抗できない。」

「それにいたずらをしたね。」「はい。」
「ソピア。」「はい。」
「ガマは君のお姉さんだけど、体が小さい。小さいのに復讐したね。」

「はい。」
「抵抗できない相手をいじめる。これを何と言うかな。」
「「加虐趣味サディズムです。」」二人は即座に検索した。
消毒5

「その通りだね。一般にサド行為は、人しかしないと思われている。確かに非生物は意志を持たない。でも、動植物は生存のためにしか攻撃しないんだと思い込まれてる。本当はそうじゃないんだけどね。イルカはいじめをするし。」

「「はい。」」クワントだけに話を記録はしているが、まだ理解できない二人。

「このように人間をおとしめる定義は、いくつかある。いじめる者、というのがその一つだ。間違う者、と言った人もいる。こっちは確かにそうだ。でもね、正しくても、くはないんだ。」「「どうしてでしょう。」」

「言葉というのは恐ろしくて、だったらいじめてもいい、間違ってもいい、そういうお守りになってしまうからだ。つまりね。あえて自分を貶めるようなことを言う者は、決して善くはならないんだよ。これをね、被虐趣味マゾヒズムという。」

「「…。」」
「マゾに陥った者は、必ずサドになる。」
「どうして」「ですか?」

「宇宙で一番可愛い自分が、そんなにつまらないとは、思えないからだ。」

「「…。」」「だから必ず、誰かをいじめる。いじめて自分が偉い人間だと、まやかしの幻想に酔う。だからサドとマゾは必ず同居する。わかるね。」
「「はい。」」理屈では、なんとなく、わかる。

「人間誰でも、生きている間に、必ず誰かのサドやマゾに出会う。まあ、毒のある生物に出会うようなものだ。生きている間に、毒を飲まされるのは避けがたい。でもその毒消しを、ちゃんと人間は持っているんだよ。」

「どんな、毒消しでしょうか。」とソピア。
「例えば、かわいそう。それだよ。少しの工夫で、サドにもマゾにも陥らずに済む。気を付けている、というのがその一つ。でもひどいことをしなくても。」

「望みを叶える方法は、たいてい、ある。」

「たとえば、どんな。」とガマ。
「ガマ。」「はい。」
「化粧の練習がしたかったら、人形でよかったんじゃないかな?」
消毒6

「--それよりも、いたずらをしたいと思ったのなら、いたずらよりもまともにソピアと遊んだ方が、楽しくないかな?」
「…先生の言う通りです。」

「ソピア。」「はい。」
「被害を受けた、それを悔しいと思うのは当然だ。」「はい。」
「なら、ガマに気持ちを伝えて、同じいたずらをすればよかったのでは?」

「--結構、互いに笑える時間を持てたかも知れないよ。」

「--もちろん、ひどいことをしておきながら、それに無関心な人間もいる。そういった人間の方が、あるいは多いかも知れない。これじゃあ、愛情の持ちようはないよね。行き着く先は殺し合いかも知れない。」「「…はい。」」

「ただ、無関心な人間に復讐すると、たいてい自分もサドに陥ってしまう。」
「「なぜですか?」」
「悪いとも思っていない相手には、思い知れと、つい攻撃しすぎてしまうから。」

「--それにもし相手の方が力が強ければ、復讐することも出来ず、時間と共に自分の毒が強まる。すぐに復讐できない、悔しい、ここに帰ってくる間、ソピアはそう思っていたんじゃないかな。」

「…その、通りです。」

「ソピア。それは、損だよ。君は怒りに侵されて、狂ってしまうだろう。確かに、人間は間違うし、いじめるし、卑屈にもなる。でもそのからくりを知って、望みを叶える方法を学んでいれば、きっと、善い人間になるし、幸せに、なれる。」

「「…はい。」」
「私は君たちに、幸せな、人生を送って欲しい。」
「「はい。」」二人はこういう時のラオの目に、弱い。

「だが残念なことに、他人に無関心な人間はいくらでもいる。それはね、関心を持つ力がないからだ。つまり、知能が弱っている。」
「「はい。」」知能には、自負も誇りも持っている二人。

「例えば誰でも寝ている時は、気を付けられない。」

「--いびきをかいて隣の人を悩ませるかもしれない。でもいびきをかいている人を、叩き起こす必要はないんだ。」「「?」」
「耳栓、すればいい。」
消毒7

「うふ。」「あは。」
と二人は笑いだし。やがて。
「「あはははは。」」

「いい子だ。さ、おいで。」ラオは二人を招き、髪を撫でてやった。体は小さいが心が成長しつつある、ガマの緑の髪。体は大きいがまだ心が幼い、ソピアの栗色の髪。二人とも気持ちよさそうに、ラオに体を預けている。

「--ガマ。ソピア。二人で、今回のことを幸せに帰す方法を、話し合いなさい。」
消毒8

後書き


登場人物たちが住んでいるセレスの環境については、いずれまとめて書くつもりでやすが、とりあえず環境の駆動力となる太陽光について。セレスから見た太陽は、こんなもんでしかないようでやす。
消毒00
出典:下記動画

だから、ただドーム内で生き延びるだけでも、莫大なエネルギーが必要で、だからサーラたちが木星へ行ったり来たりしなくてはならないわけで。大気の循環にも廃棄物処理にも。早い話がドーム内に風を起こすこと一つ、このか細いお天道様では無理なわけですねい。


御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
Arigatogozaimashita. Thank you. I remember you.
人形拝借:
http://free-illustrations.gatag.net/


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