FC2ブログ
     

SF『クワント(КВАНТ)』


●告知●論語はこちら、紀行文はこちらへ移転しました。

◎  スポンサー広告/スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

◎  5.セレス編/47.泥酔 

 

「♪勃発プロイザシェルクーデターピェレワロト政権ウラスチザファット武力崩壊ワルジェンヌイ~。」

アルファーが楽しそうに歌を歌いながら、兵舎から帰ってくる。ただしその歌詞にぎょっとした守備隊員が、目をまん丸にして敬礼している。ワーレが古記録を検索して、見つけた歌であるらしい。そのノリが、すっかりアルファーの気に入った。

今自室に帰るアルファーの出で立ちはいつもと変わらない、青の軍服調スーツだが、今は肩章が付いて、本物の軍服になっていた。
「兵たちが混乱しますからね、アルファーさんも守備隊に入って下さい。」

そうワーレに言われ、アルファーは正式に中佐になった。だから肩には線二本と、桃の花が二つ付いている。だが名目だけではと、アルファーも訓練に加わった。
「なかなか筋がいいですね。」
泥酔1

練習杖を振ったアルファーを、ワーレは褒めた。

無愛想にしているワーレだが、ものを教える事に関しては、彼女こそ筋がいい。アルファーの姿はまるでなっていないのだが、それを言ってしまえばやる気をなくす。初心者は褒めてやらないと伸びない。

ワーレはまず、アルファーの両手幅を計るところから始めた。杖に長さの規格はあるが、練習には体に合った長さがよい。無理に振り回すことは出来なくはないが、それではおかしなクセが付いてしまう。アルファーに合った長さに杖を切った。

ワーレが参考にした北の国の個人武術は、草原の国を基本にしながら、日の出の国の要素も多く入っている。礼に厳しいのもその一つ。武人に礼がないと、ただの野蛮人になってしまう。ワーレはまず礼儀作法を教えてから、杖の持ち方に入った。

「握りにスキマが空いていますよ!」「はい。」

「しっかり握らないと、打ち合わせれば弾かれます。技も、効きません。」
「はい。」
ささいなことの一つ一つを、指摘され直される。

泥酔2
「突きの時は拳も突くように!」「はい。」
「手や腕だけで突くのではありません。腰をひねり、体重を杖に乗せるのです。」「はい。」

アルファーは新鮮な驚きを持った。10億年、ラオから様々教えられたのだが、それは知識であったり機械の制御や操作だったりした。義体の制御は自分で練習し、なんでも出来ると思っていたが、体を思うままに動かすのが、こんなに難しいとは!

「今日はここまでにしておきましょう。」「はい。ありがとうございました。」

***

着替えを済ませてラオの部屋に行くと、ソファーにソピアがいた。

対面はもちろんラオだが、アルファーはごく自然に、その隣に座る。ソピアは深刻な顔。誰も図書室に、来ないのだという。ガマとの一件を、まだソピアは引きずっていた。自分はみんなに、嫌われているのではないかと。まだ心が幼いソピア。
泥酔3

一番仲の良いカーラは、ミルヒ・クー号で航海中。ソピアが泣きそうに言う。
「いずれルナやミルヒ・クー号のみんなにも、話が伝わってしまいます。」
「うん、隠しておくような事ではないからね。」とラオ。

「私はこのまま、嫌われ者になってしまうのでしょうか。」
「嫌われてはいないと思うよ。現に私は君を愛している。」
アルファーは、自分はどうだろうと思う。ソピアを嫌ってはいないが。

ラオのように愛している、と断言できるかどうか。

「でも誰も私の所に来てくれません。私のエゴ定義は、’みんなの司書’なのに。」
「う~ん、別に用がなければ来ないんじゃないかな。」
ラオは机上のホログラムを立ち上げ、図書室の出入り記録を表示させた。

「--確かに、スパコンへのアクセスはあるけど、閲覧に来てはいないねえ。」
「そうなんです。ガマも私を拒みませんが、ガマの方からは、来ません。」
「それは嫌われている事にはならないよ、ソピア。」「でも!」

(難しいところだ。)とラオは思う。生まれたばかりのソピアは、まだ甘えたくて当然。生まれてすぐに大人として振る舞ったアルファーが、特別なのだろう。確かに姉アルファの記憶を引き継いで生まれた点では、ソピアも同じ。

だがそれは、個性というもの。

ヴィタとガマが子供の義体を選んだのは、善い判断だったとも思った。体が子供なら大人達は、どうしても甘やかす。甘やかされて愛されて、人は育つ。記憶がいくら億年単位でも、自分の人格は経験を積んで、自分で作っていくしかない。
泥酔4

ふと気付いて、隣のアルファーの目を見たラオ。アルファーは大人になろうと、無理をしていたのかもしれない。だから昏睡してしまったのだろう。アルファーもソピアもラオの都合で生み出した。だから。

彼女たちの都合もまた、かなえてやらねば。
(こんな時、ボド先生ならどうするんだろう。)
だがボドは今ルナにいて、忙しいだろう。相談するのもはばかられる。

そう言えば娘のカーンティも、子供の義体を選んだ。

能力の点で言えば彼女は、AIたちの中で一番優秀で、かつ万能に近いのにも関わらず。カーラもまた、人間が出来ている。戦闘AIだから、だけではなさそうだ。融通の利かなさが、かえって頼もしく見えて好かれてもいるらしい。

(次の航海で、イチゴ船団に乗せて貰うか。)
可愛い子には旅だ、と思いかけてラオは焦った。なんという怠惰と甘えだろう。ソピアは自分のAIだから、自分が責任を取って育ててやらなければならない。

「ソピア。」
「はい。」
「しばらくの間、私は仕事を図書室でするけど、いいかな?」

「え? あ、はい。先生が来て下さるなら喜んで。」

「アルファー。」
「はい。」
「君も一緒に図書室に来て欲しい。」「はい…。」

「それに君は格闘訓練も始めたし、なにより温泉の管理もある。不在の間、ソピアに秘書を頼むけど、どうかな?」
「…いいご判断だと、思います。」若干さびしそうに、アルファーは答えた。

「じゃあソピア、今日から早速そうしよう。」「はい!」
こうしてラオの部屋は、公室と自室が曖昧だったところ、自室へと戻った。訪ねてくるのがアルファーであるのは変わらないが、秘書として、ではなくなった。

温泉を閉めて夜に来る。ラオは彼女をたっぷりと、甘えさせてやるのだった。

***

ソピアの図書室は、賑やかになった。
泥酔5

なにせセレスに残留中の人間クワントは、ラオとレナだけ。レナは別格と見なされており、誰と無くAIたちが、ラオに相談や決裁を求めやって来る。ソファーに座るラオはそれらを受け、「まずソピアに相談してご覧」と言う。意外な顔をするAI。

だがラオがそう言う以上、机のソピアと話さざるを得ない。ソピアもそれを受けて、毎日毎日、ラオの与えた記憶を検索し、解釈し、最適解と思うところをAIたちに答えた。その都度ソピアの知力は上がり、エゴは満足し、存在意義を自覚した。

「ねえソピア。」とラオ。
今ナガラが、工法の相談をし終えて図書室を出て行った。
「なんでしょう先生。」

「相談されて、嬉しいかい?」

「はい。頼りにされるのは嬉しいです。」
「そうか。なら笑顔を絶やさないようにしてごらん。」
「笑顔、ですか?」

「うん。会話というのは、お互いが対等な人間同士であるという、大事な事実を確認する、いい機会でもある。」
「はい。」

「相談するというのは、どうしても、引け目を感じてしまう。自分の無知を自覚せざるを得ないからだ。」
「ええ。」

「でも相談されるソピアも、嬉しい、と思える時間をもらっている。」

「--どっちが上か下かなど、ないよね?」「その通りです。」
「なら、嬉しそうに検索したり、解釈したり、答えたりしてみてご覧。相手は、自分はソピアを喜ばせた、いいことをした、とはっきり分かる。」

泥酔_002
「--いいことをした人間は、気分がいい。会えば気分が良くなるソピアを、誰が嫌ったりするだろうか?」「…その通りです先生。」
「とりわけガマには、笑顔を絶やさないように。」

「…。」上がっていたソピアの眉が、スッと下がる。
「怖い目にあった記憶は、消えにくいけど、それをいい気分で上書きしてあげるんだ。そうすればガマも、ソピアを好きになってくれるだろう。」「はい!」

それをかたわらで聞いているアルファーは、やや複雑。

自分はこんな風に、ラオに手取り足取り、教えて貰っただろうか? こんな風に、甘えさせて貰えただろうか? 生成された時はメテオ爆撃時で、そんな余裕もなく思いもしなかったが。と、すっとラオに肩を抱かれた。

思わずラオを見るアルファー。ラオはにこやかに、アルファーを見ている。そして手を伸ばし、優しく髪をなで始めた。
「アルファー。」

「はい先生。」
「ソピアにまだ何か、言ってあげられる事はないかな?」
「えーとそうですねえ。」

アルファーはラオを離れてソピアに向き直る。

泥酔6
「--ソピア。」「はい姉さん。」
「あなたが座ったまま、相手が立ったままでは、笑顔でも対等になりません。」
「その通りです姉さん。」

「どうすればいい?」
「えーと…椅子をもう一つ用意して、机ではなくカウンターにします。」
「その通りよソピア。」「はい姉さん。」

「いい機会だから、カンテンに行って椅子を作りましょう。私も一緒に行きますから。」
「ありがとうございます姉さん!」

うまいぞ、これでいい。ラオは嬉しく思った。

***

「ああたねへ。」

夜、酔っ払ったレナ博士が、ラオの私室でくだを巻いている。
(私は置物、私は置物。)
私服のアルファーは糸目になって、この場をやり過ごすべく耐えていた。

いつものようにラオを訪れたのに、こんな先客がいた。
「--ソピアのことお、にゃかにゃかやるはと、褒めへあへるわ。ひゃっひゃっひゃ。」生体のレナは大酒飲みだが強くはない。いや、いつも飲み過ぎる。

ラオもまた糸目になって、この場を耐えていた。
「--えへえ? 何とか言ひなはいよ~。このモテ男お。はひゃひゃひゃ。」
「あのう博士、もうそれぐらいになさっては。」とアルファー。

「あーそーたったそーたった。おひゃまたったはねへ、あたひ。」

「--ほいひゃあ、はへるとふるは。」立ち上がったレナがその場で崩れ。
ZZZ…。
「どうしましょう、これ。」
泥酔7

「これ…って。博士のことをこれ、って。」「じゃあ…物体A?」
「こら! アルファー。聞こえたらどうするんだい。」
「じゃあ博士Aでも何でもいいです。」

「…トキアに言って、回収して貰おう。」
「先生だって、回収とか言ってるじゃないですか。ゴミみたいに。」「…。」
数分後。

「…大変、お邪魔しました。」真っ赤な顔のトキアに、レナは回収された。

後書き


アルファーが歌っていたのはこちら。

今回のは歌詞、って言えるんでやしょうか? パクロンスカヤさんの記者会見、職人さんが電子的に歌に仕上げたものでごぜえやすから。

エポレットが付いたアルファーは、ますますパクロンスカヤさんに似てめえりやしたが、それは偶然というもので。
泥酔8
背景を一から描くのがどんなに難しいか、思い知りやした。あたしにゃあネット絵師さんのマネなぞ、とうてい出来るもんじゃあ、ございやせん。

作者九去堂敬白。


関連記事
スポンサーサイト

COMMENT FORM

  • URL:
  • comment:
  • password:

back to PAGETOP

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。