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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  7.インテグラ編/60.貴族 

 

「記憶の並列化を、していない?!」
貴族1

ミャーフカの打ち明け話を聞いたトキアは驚いた。守備隊員は夜、カプセルベッドで休む。枕元には端末があり、自分でワイヤを接続して並列化することになっている。しかしそれをやらずに眠るのが、半ば公然と行われているという。

「--それ軍紀違反じゃない! 中隊長は知ってるの?」
「ええ。ヒメノ隊長はご存じです。他の隊長もそうだと聞きます。」
「それで処罰とかないの?」

「一度もありませんし、とがめられたこともありません。」
「それっていつから?」
「さあ。でもずいぶん前からだったように思います。私自身も、そうです。」

発端はよくわからない。

ミャーフカによれば、「並列化しないで寝ると面白い」という話が、どこからとも無く流れてきたという。翌朝、まわりの隊員がみな同じ動きをするロボットのように見え、自分だけが何か、特別な存在であることがありありとわかる。

それは兵舎内を歩くこと一つをとってもそう。行き違う時はぶつからないよう、互いに右にれるよう初期設定された。だが並列化していないと、(一つ左に逸れてみよう)という気になる。そうすると相手は混乱する。
貴族+3

すくみ上がったりもする。これが何とも面白い。
「じゃあ今は誰も、並列化していないってこと?」
「ええ。そういういたずら心の無かった者でさえ、今ではやめています。」

「…ミャーフカ。」「なんでしょう。」

「聞いてしまった以上、私は博士に報告せざるを得ないけど、いいわね?」
「ええ、どうぞ。それに博士は、とうにご存じじゃないでしょうか。隊長たちが報告しているでしょうし、それにそもそも。」「そもそも?」

「こうなることをお望みだったように思うのです。でなかったら、私らに自我エゴはできなかったでしょうから。」そうミャーフカは、にっこりと笑って言った。
能力が上がった者ほど、早くからやめたらしい。

確かに彼女の言う通り、エゴがないと、使いものにはならない。だが診察室に戻ったトキアは、レナ博士と二人きりの時を選び、ミャーフカの話を報告した。それを聞いてレナは言う。「知ってたわ。」

「やはりご存じでしたか…。」

「私だけじゃなくて、ラオも知ってるわ。カーラたち幹部もね。」
姿勢を正してトキアは言う。「博士。これはまずいのではないでしょうか。」
「そう思わなくは、ないわね。」
貴族2

「これでは軍としての統制が、めちゃめちゃになります。統制のない軍隊は、ただの暴徒です。」「その通りね。」
「--でもね。最初は、かわいそうだからって言うの。」「何の話です?」

「並列化すると、ワイヤ付けたまま寝るの。意識も触られる。どうしても、寝苦しい。だから黙認していいかってオキノに聞かれて、許可したの。」
「でもこのままでは…。」

「そうね。でもここで並列化を強制しても、たぶん守備隊は崩壊するわね。」

「--みんな同じになっちゃうから、階級や指揮系統を維持できない。」
「そう…ですね。」
「一糸乱れず、命令に絶対従う軍隊なんて、論理が破綻してるの。」

「--何をすればいいか、いちいち指示しなきゃいけない。自我エゴイコール欲だけど、欲がないと何も出来ないの。」「欲があるから能力がある?」
「その通りよ。例えば膨大に人的資源がある組織なら、いいけど。」

「--下士官に人間や人格AIをてるような余裕、セレスにある?」
「…ありません。」
「あったとしても、今度は下士官や士官の欲望を、誰が見張るの?」

「--見張る者の欲は?」「きりがありませんね。」

「そうなの。これは永遠のパラドクスなの。」「永遠?」
「うん。太古、人が文明を築いた時から気付かれてたわ。’親衛隊のパラドクス’と言ってね。」「どういう意味でしょうか。」
貴族+2

「今話した通りよ。古代帝国で軍隊が暴れないよう見張りたいって、皇帝がまず親衛隊作って監視させたの。そしたら今度は親衛隊が特権階級になって、好き勝手に皇帝を暗殺したり、首をすげ替えたりしたの。どこの文明圏でもね。」

「どうにか、できなかったんでしょうか。」
「うん。中には男性を去勢して、これで欲はなくなるだろうと考えた文明もあったわ。宦官かんがん、っていうんだけどね。でもダメだった。」

「博士。」「ん?」「その、博士なら何とかならないんでしょうか。」

「--欲と自律のバランスというか、ハーモニーというか。」
「うーん。」とため息をつくレナ。
「--そうできれば、どんなにいいか、いや、どんなにおぞましいかしら。」

「--もともとそんな調整自体、私には無理だわ。それにねトキア。人造人間ヒューマノイドがたいてい、発狂か自殺したのは知ってるでしょう?」「ええ。」
「そんなバランスもハーモニーも、欲のありようによって千差万別なの。」

「--だから調整なんて不可能なの。それなのに欲も自律も勝手に設定されたから、ヒューマノイドはうまくいかなかったの。免疫が病原菌を殺すように、自分でないものは受け入れられないし、受け入れたらおかしくなるのよ。」

「…そうですね。」トキアはうなだれた。

***

夕刻、キアラは兵舎に帰る。

ヴィタと共に作った服や、わずかな私物は、図書室のかたすみに置いてきた。ただし、髪をまとめるリボンだけを持ち帰った。ラオは全部持っていっていいよ、と言ったのだが、兵舎は狭いので、とキアラは置いていくことを懇願した。

「ニーナ、いる?」兵舎に帰るとキアラは、仲の良い隊員のカプセルを訪れた。
「あ! お帰りなさいキアラ姉さん。」最下段のカプセルからニーナが首を出す。
そう。キアラという名は、ニーナが名付けた。
貴族3

ニーナという名は、キアラが名付けた。豊穣の女神を意味する’セレス’と同意語。二つの名はお互いだけの呼び名。ニーナは、’のろまムジュラナ’というひどいあだ名を付けられていたから。

隊員たちは私的な会話を、軍用言語ではしない。

「おみやげよ。」といってキアラはリボンを渡す。薄い黄色のリボン。だが私物をほとんど持たない彼女たちにとっては、貴重。
「ありがとう姉さん。」ニーナの顔がパッとほころび、早速髪を結う。

キアラもニーナも、’まじめ’なインテグラだった。今でこそ並列化はしていないが、それはずいぶん最近になってのこと。だがその代わり昇進は遅れ、二人は下から二番目の兵長でしかない。教育が終われば、全員そうなる。

「姉さん、ラオ大佐ってどんな人だった? クワントっていい人たちなの?」
土産話をせがむニーナ。並列化をやめて自我を持った時、何かといじめられていたニーナがかわいそうで、キアラはなにくれとなくかばってきた。

並列化をやめさせたのもキアラ。

「うん、いい人だったよ。AIのみなさんも。」「どんなお仕事したの?」
「う~んお仕事と言うより、服とか貰って、話を聞かれたというか。」
ラオもヴィタもソピアも、キアラたちインテグラのことを知りたがった。

キアラは問われるままに答えたが、本当に言いたかったことはかたくなに避けた。言えば自分はともかく、ニーナがどんなにひどい目に遭うだろう。
キアラの話を、嬉しそうに聞くニーナ。
貴族_1_002

訥々ぽつぽつと語り、諾々うんうんと聞く二人。二人にとって地獄のような兵営生活だったが、こうしたささやかな幸せもあった。これだけは何としてでも、守りたい。
そこへ。

「おい短いのクラートカヤ! 曹長がお呼びだよ! いっしょに来な!」

隊員の一人がキアラをあだ名で呼んだ。曹長の取り巻き。怯えた目でキアラを見るニーナ。「姉さん…。」
「大丈夫。大丈夫だから。いつものことよ。ニーナは早く寝なさい。」

「ううん待ってる。」
リボンを握ってニーナは言う。
「だめ! 早くシャッター閉めて!」

「おい何をやってる! のろまムジュラナ! お前もいい加減にしろ!」
「すみません。すぐ行きますから。」無理にカプセルのシャッターを閉め、キアラは連れ去られるようにその場をあとにする。

だがニーナが寝られるわけはない。

***

曹長室。

守備隊兵舎では下士官になるとカプセルベッドから解放され、相部屋だが一室を与えられる。曹長になると小さくはあるが、私室を与えられた。管理の仕事があるから。ただし出動中は全員カプセルで、それは大隊長であるカーラも同じ。

そこへ連れられたキアラは、机を前にして座る曹長の前に立たされていた。両隣には、曹長の取り巻きインテグラが二人。
「大佐に何を話した?」と曹長。
貴族4

「聞かれたことを、話しました。」
「だから何を話したか、と聞いている。」
「我々隊員とはどんな人間か、ということです。」

「人間?」と曹長。

「--お前は反抗的だな。ロボットでしかないお前が、自分を人間だと?」
「ええ人間です。大佐がそう仰いました。」
「ウソをつけ!」

取り巻きの一人が、いきなりキアラの腹を殴った。
「うぐっ!」
「誰が寝ていいと言った!」もう一人が背中を蹴る。

「とりあえず、立て。」と曹長。自分で手は出さない。
「--お前には教育が足らん。ワーレ少佐が認めても、直属上官であるこの私が認めん。本当なら兵卒だ。」

「それこそ抗命ではないですか。」とキアラ。

「だから反抗的だと言っている!」曹長は目配せする。
「壁に手を付け!」と取り巻き1。取り巻き2が、キアラの上衣をはぎ取った。
「気を付けて教育してやれよ。今夜は30ぐらいでいいだろう。」

「--特に顔や手足に傷を残すな。分かっているな。」と曹長。
分かっています、と取り巻き二人は言い、古ロープを束ねたものを手に取った。それを振り上げ。

「!」「一つ。」
「!」「二つ。」
「!」「三つ。」打つ取り巻きは小声で数を数える。

キアラは大声を出したくなるのを必死にこらえた。

外に聞こえた所で、誰も助けには来ない。隊長たちに見つかれば大事になるだろうが、その代わりニーナがどんな目に遭わされるかわからない。そう、思い込まされていた。お前は無力な奴隷だと。

閉じた空間での情報遮断。行動の制限。勝手な規則の解釈。さらにその押しつけ。些細なことも反抗とされる厳罰主義。心身ともにひ弱な者でも、こうしてサディズムを行える側に立つと、全能感に満たされ理性が吹き飛ぶ。

つまりサディストもまた、奴隷に他ならない。上から受けたサドをマゾとして受け、そしてサドとして下に対する、ただの回路の部品。そんなサディズムを何より嫌うラオの作った守備隊で、星系のどこより残忍なサディズムが横行していた。

「十七。」
貴族5

後書き


貴族6

参考動画




御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
帽子拝借:ぐんにょり亭


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