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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  7.インテグラ編/64.経済 

 

元曹長と取り巻き二人は、トキアのところへ身を寄せた。
経済1

寝袋にわずかな身の回り品と、ナガラから贈られたコルネットだけを持って。だがすでに、ミャーフカが寝泊まりしている。部屋はいっぺんに狭くなった。困ったトキアは四人を伴い、ドーム外に家を建て始める。セレス初の、自宅。

しかし執行猶予の三人は、大工仕事だけに精を出すわけに行かない。6時間は誰かを楽しませ、喜ばせなければいけないのだ。とりあえずはレナの助手として医療に従事、と言う事で、なんとか条件をクリアしたが。

「ただ、いつまでもこうしてるわけにはいかないわね。」とレナ。
「そうですね…医療で安心を与えている、と言い張るのは、何だか陰険役人や悪徳弁護士みたいですし。」とトキア。

「何かするにもまずは名前ね。元ナガラ隊ナニナニ号、てのも変だし。」

「--あなたたち! 自分でいい名前考えなさい!」
ところがインテグラではあっても、言語的創造力に乏しい三人は困ってしまい、結局はレナに名付けを願った。では、ということで。

元曹長はコルネット吹きだからコルネ。
取り巻き1は取り巻き1だからドリー。
取り巻き2は取り巻き2だからマキ。

レナは半ば面倒くさくなって名付けたのだが、存外三人の気には入った。次に何をしてみんなを喜ばせるかとなると、これがむつかしい。特技のあるコルネでさえ、コルネットを毎日6時間も吹いているわけにはいかない。
経済2

むやみに吹いても迷惑になる。
「しょうがないわねえ。」とレナ。
兵舎生活で、何か不便なことがなかったかと聞くと、繕い物だという。

なるほどこれはロボット化の盲点だった。

破れほころびは千差万別で、掛けぎにまでなるとセンスも要る。三人は義体出力を生体並みに落とされているが、縫い物なら不都合もない。三人は午前中を、大工や医療助手として働いたあと、午後になると兵舎に行く。

折りたたみ机・椅子・針箱のワゴンを押して。古代の占い師のように、廊下の隅に繕いの店を出す。違和感を持たれたのは初日だけで、その後はちらほら客が付いた。そこでありがたかったのは、ラオのサド禁止令。

彼女たちもまた、復讐やいじめに遭わなかった。一体今まで自分らは、何をやっていたのだろう。立場が変わって初めて、人間関係の初歩を学ぶ三人。付いた客も、金銭の授受はないものの、人に喜ばれるというのは確かに嬉しい。

その勢いで愛想も良くなり、持ち帰る縫い物が出るようになった。

週末の一日は演奏に行く。コルネがドリーとマキに楽譜を教え、とりあえず打楽器の伴奏が付いた。
「♪パッパー。」「♪チーン。」「♪カチカチ。」

なにせ命がかかっているから、二人も必死で覚える。必死だから上達も早い。
「子供の学芸会みたいだけど、結構聞かせるわね。」とレナ。
その口利きで、クワントたちの食堂や、温泉にも呼ばれるようになった。
経済3

むろん身体検査はされる。それでも好評で、やがてセレスの各拠点で公演して回るようになった。つくろい衣装を着、ミシン型のキーボードに刺繍枠型タンバリン、そしてコルネット。娯楽のない工事現場の宿舎では特に歓迎された。

お針子バンドザ・シームストレッセズの誕生は近い。

***

守備隊にも大改変があった。

ラオたち人間クワント三人は、ボドの同意を得た上で、守備隊員たちに今後の身の振り方について希望を聞いた。兵営生活になじめない、そもそも兵士という仕事に違和感がある、そうしたインテグラたちを。

兵舎に縛り付けては気の毒だし、今後問題になる。

セレス滞在中の隊員200名のうち、60名ほどがそうだと答えた。その数だけ新たにインテグラを産んで当てればよいが、やはりなじめない者は出る。隊を離れる者には、新たな仕事をあてがわなければならないし、住む部屋も要る。

「60人も除隊希望者が出たかっ!」
さすがにラオも予想外で、参った。
「まさか3割とは…。」とアルファー。
経済4

「それだけ兵営生活が、辛かった、ということでしょうね。」とレナ。
「平時安全保障に従事する人口は、社会の1%が妥当のようです。」とソピア。
今とりあえず彼女たちには、新しい居住棟を建設させている。

一方会議室に集まったラオたちは、正面のディスプレイを見やっている。

・セレス管制室
・観測拠点
・ベテルギウス砲
鉱業プラントトンテン
工業プラントカンテン
リアクターキララ
・農場
・廃棄物再生機構
物資ぶん投げ機マスドライバー
・彗星ドック
・厨房(クワント食堂・兵舎・新居住棟)
・セレス温泉
・ガマドーム
・宇宙港
・パイプライン管理室
・施設保守室
・診察室
・クワントの助手
経済5

「こうして見てみると、意外に仕事ってあるね。」とラオ。

「インテグラじゃないと出来ない仕事、ってわけばかりじゃないですけどね。」とアルファー。
「今後も、守備隊になじめない子は出るのよ。」とレナ。

「どこか時代を遡るようでやすが、人型ロボットの仕事を代わってもらってはどうでやすかい。」とロミ。
「そろそろ実証機作るから、ドームに人手があると嬉しいかも。」とガマ。

「分業かぁ…。それこそ時代を遡ることになるけど、貨幣経済にしないと分業って起こらないんだよなぁ…。」とラオ。
現行のセレスに貨幣はない。

クワントたちは何か欲しければ、自分でそれぞれの設備に行って自分で作る。

終わったら設備を整備して帰るが、来た時壊れていれば自分で直す。材料がない場合も、自分で採掘したりする。確かに得意分野・不得意分野はある。熟練のクワントであるワーレが、修理を幼いソピアに手伝って貰ったように。
経済6

だが奉仕の代償は奉仕か、好意のやりとりで決済が済んでいた。理由は高機能超長命のクワントだから。いつかお返しがある、しなきゃ、と思える。だがインテグラの場合、DNA型人間より遥かに高機能だが、クワントほど多芸ではない。

分業するか、クワントに依存するしかない。分業なら貨幣→市場経済にならざるを得ない。依存なら奴隷制とまでは行かないものの、階級社会になってしまう。
もちろん教えればインテグラも、たいていのことは覚えてしまうが。

それでも好き嫌いは、どうにもならない。

嫌いな仕事を強要すれば、また同じような不満や鬱屈が溜まってしまう。それに加えて、もっと大きな懸念がある。現状のセレスでは、供給が需要より大きいので、働かなくても食えてしまうし、無職の者はこれまで居なかった。

インテグラは全員守備隊員だったので、衣食住は支給された。だが除隊者の待遇をどうするか。コルネたちのように、最低限は保証するが。ラオは悩む。
「市場経済にすると欲望が際限なく膨らんで、結局社会が崩壊するし…」

「--無為徒食は精神が病むし…。」それを聞いてロミが言う。
「あまり考え込む必要はねえんじゃねえでやすかい。インテグラちゃんたち全部、部品みてえに適職あてがうのは無理ですぜい。」

「計画経済なんて、思い上がりよ。」とレナ。
経済7/君子は食に…2

「--放って置くしかないわ。最低限の義務だけ付けるにしといたら?」
「最低限? …ああ、非常時の応召義務とかですか。」
つまり守備隊を除隊ではなく、予備役にする。

戦時やセレス全体の必要がある時だけ、従軍や奉仕の義務を課す。その代償として、最低限は保証する。あとは興味の向いた分野で、好きなように生きればいい。それは社会の揺らぎを、保証することになるだろう。

あまりによく作り込まれた、強固な社会は、環境が変わると一挙に崩壊するから。
ラオはまとめた。「仕事は、用意する。ロボットを休ませておけばいい。報酬は貨幣でなく、クワント同様好意と自尊心。それと、ささやかな差異かな?」

「差異?」とアルファー。

「うん。例えばマーイさん、管理してる農場で働いて貰うインテグラたちに、何かしるしのようなものを与えてやっては。」
「そうねえ…カマ印の緑のクリスタルとか、いいかも知れませんわ。」

それを聞いたガマ。
「リアクター要員には、チェレンコフ光色の指輪なんていいかも!」
「温泉は水玉ですかね。」とアルファー。
経済8

聞いたレナが話を引き取る。
「そういうのを子供だまし、幼稚化だって皮肉った古代の物書きが居たけど、自尊心を保ついい方法よ。それが足りなくて、物書きは自殺したんだけどね。」

「--どのみち貨幣のようなものは出てくるでしょうけど。」

「貨幣、やっぱり出るでしょうねえ。」とラオ。
「避けられないでしょうね。でもそれだけで人格を決められてしまう社会は、幸福とは言えないわ。問題が起きた時に、その都度対処するしかないわ。」

「--でもだからといって、経済統制掛けちゃダメよラオ?」
「わかってます。それやって失敗ばかりした人類史ですから。」
「計画経済って役人天国の、奴隷制の言い換えだもの。」

おもむろにロミが言う。
「あたしらあに出来るのは、インテグラちゃんたちができるだけ何でも出来るように、教えてやることだけですぜ。」

もっともだ、と一同がうなずいた。

***

守備隊の兵舎は拡張された。

生まれたばかりのインテグラは、自我を持つ準備としてカプセルに住まい、並列化も行うが、自我を得たら名前を名乗り、カプセルの倍の床面積がある個室に移る。共同生活はよくても軍務になじめない者は、新設の救助隊などに移る。

救助隊は基礎訓練をトキアが行い、設備保守隊はガマが行った。共同生活が苦手な者は、好きな仕事についていいと言われ、多くがマーイの農場を選んだ。
「あらまあ、ヴィタちゃんもウチに来てくれるの?」とマーイ。

インテグラたちを連れて、ヴィタがやってきた。
「ええ。ここで働かせて下さい。ラオ先生も賛成してくれました。」
だが一方で。「この子たちをどうしたらいいんだー!」と悩むラオ。
経済9

軍務は好きだが共同生活は真っ平、というインテグラたち5名。

そこへセレスの戦闘狂二人が、話を聞きつけて嬉しそうにやってくる。
「私に、引き取らせて下さい。厨房でコキ使ってやります。」とワーレ。
「いや、私に。ワーレとばかり手合わせするのも、飽きてきました。」とカーラ。

「貴様に引き取らせて、何の仕事をさせるんだ?」
「お前こそ。全自動厨房にしたんだろう? 人手が要るのか?」
「ほう。やはり貴様とは、一度決着を付けておく必要があるようだな。」

「ああ。私もそう思っていた。今ここでやろう。」
「やめて下さい! 図書室ではお静かに!」とソピア。
「…要するに、武技の稽古がしたいんだね?」とラオ。「「はい。」」

「じゃ全員預けるから、どちらか一人が道場開きなさい。」

後書き


あたしゃあコルネットとトランペットの見分けが付かないばかりでなく、データも探せません。
経済10

作者九去堂敬白。

参考動画




御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
Arigatougozaimashita. Thank you. I remember you.
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