FC2ブログ
     

SF『クワント(КВАНТ)』


●告知●論語はこちら、紀行文はこちらへ移転しました。

◎  スポンサー広告/スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

◎  7.インテグラ編/68.絵画 

 

「ちょっといいかしら?」とレナ博士が図書室に入ってきた。
絵画 (1)

冗談で作った、おつきロボットを従えている。
「--ラオ、新規生産分のインテグラのエゴ定義するから、手伝って。」
「ああ、丁度博士に相談したいことがあったんですよ。」とラオが立ち上がる。

ソピアは、摂理の反撃も救う方法も聞けなかった。’ラオ教授の講義’が中断されたのを残念がったが、彼女もまた、ワーレ道場の新弟子に与える、教養科目のドリルを作らなければ。やはり立ち上がってラオを送り出し、仕事を始めた。

一方、レナの仕事場である診療室に向かいながらの、歩き話。
「何もしたくない子ちゃん?」とレナ。
「ええそうなんです。どの仕事にも就きたくないって。」とラオ。

ラオは除隊希望者の問題をレナに話す。

さらなる除隊の大量発生や、働かない者への不満の懸念。自我エゴがある以上避けられない。AIの自我は、’もしAならBする’という条件式の膨大な積み重ねで、その調整によって目的に沿った人格の基礎ができる。

その意味ではエゴを持たない単純AIの延長だが、条件の数が格段に違うのと、組み合わせがフラクタルになっていた。
分形フラクタル
絵画 (1)

’てんでばらばらの条件の組み合わせが、元の条件一つ一つと一見そっくりでやっぱり違い、それがまた組み合ってそっくり、だが同じでない’という、なんとも言葉では説明しがたい条件同士の関係には、これまた格段に速い演算が要る。

インテグラたちは、その演算力はそこそこ持つ。

だが、初期状態では人格AIほどエゴが作り込まれておらず、単純AI同然。だからこそ教育が重要になるが、何を好むか、あるいは嫌うかの大まかな傾向は、ある程度設定しておくことが出来る。

「う~ん。ゆらぎが自分らの安全を保証する、と彼女たちに教えても、働かない者への不満は消せないかもねえ。」
「そうなんですよ。だからといって。」とラオ。

「--もう複雑な絵を描いた彼女たちのエゴを、調整するなんて不可能ですし。」
フラクタルは一部をいじっても、それは崩れた、あるいは傷付いたフラクタルにしかならない。人格の場合は端的に、人格破綻を起こす。

「私が相談したいのも実はそこだわ。」「?」

「寡欲には出来るけど、無気力になる。やり損なうと人造人間ヒューマノイドみたいに、自殺しかねない。やる気満々で私らに都合のよい欲望しか持たないなんて、そんな便利な人格あるわけないよね。」
絵画 (2)

「いっそ当初の計画通り、ロボットを守備隊員にしません?」「う~ん。」
「ロミ船長たちがイチゴ船団を、たった4人で維持できてたのも、下士官以下はロボットだったからじゃないですか。」

「あなたイチゴーのこと忘れてない? 5人でしょ。」「あ。」
人型義体を持たないと、どうしても忘れやすい。今は人型’も’持っているが。
「まあ、あなたでもそういうことはあるわね。」

「--それはそうとして、あなたの言う通り、ロボットが最適解、なのかなあ。」

天才レナ博士も公判以降、以前のような、一刀両断我が道を行く、というわけではなくなっている。間違いなく天才であることは変わらないが、ラオたちの話を聞き入れる余裕、あるいは聞き入れたがる心のゆるみが生まれていた。

それはたぶん、レナにとって幸せなことであるだろう。まわりにとっても。何でも言う事が聞かれる環境をレナは失ったが、その代わり判断を間違っても酔っ払っても、誰もバカにしたりしない。背筋を伸ばさなくても、尊敬される。

ずっと伸ばして生きてきたレナにとって、セレスは心地よい環境だった。間違えても間違ってないと言い張らなくていいし、黙れと怒鳴りつける必要もない。
「あ、やっちゃった」と言えばまわりは。

「あはは、博士があんな事言ってる!」


クワント時代直前、レナは全宇宙に叩かれた。クワント化してすぐ死ぬ事例の続発。人殺し、人間を数字にして踏みにじる奴。罵詈雑言がレナに投げつけられた。背筋を伸ばさなければ、生きられなかった過去。そしてこの新宇宙でも…。

「お帰りなさい博士」と、トキアとミャーフカ軍曹が出迎える。レナはトキアにお茶の用意を頼むと、丸テーブルにミャーフカを招いた。当然ラオも座る。ミャーフカはレナやトキアと共に兵舎や工事現場、イチゴ船団の検診に回る日々。

まずは看護師としての技能を身につけつつあった。
「ミャーフカ、あなた昇進って嬉しい?」とレナ。
「え? そりゃあ嬉しいですよ。部下出来ますし。」とミャーフカ。

「じゃあ派遣されてる今は居ないけど、不満に思う?」

「そうですねえ。」とミャーフカ。インテグラの中でも’頭がいい’彼女は、「不満だ」と言う言わないの損得を考える。もちろんそれは、レナにもラオにもお見通し。だがここまで人間らしいエゴが出来たことを、喜んでもいる。

「--不満じゃ、ないです。博士やトキア中尉と働くの、楽しいですし。」
「あらそう。じゃ明日から居なくていい、って言ったら、悲しい?」
「え!」

何が好きか、と聞かれて人は、当たりさわりのない話をしやすい。しかし嫌いの方では難しい。好きより嫌いの方が、その人格を端的に現すからだ。自分が剥き身にされる感覚は、誰もが恐れる。それを知るレナやラオは、やはり一枚上手うわて

「ごめんごめん、ミャーフカ。あなたを追い出したりしないわ。」とレナ。

「--ここにいるのがいやならともかく。」
「嫌だなんて。」
「私も謝るよ、ミャーフカ。」とラオ。

「--君は実に人間らしい人間だ。それをちょっと、知りたかったんだ。いじわるして悪かったね。」
ここで「博士のいじわる…。」とうつむけば、満点だったろう。
絵画 (4)

レナは抱きしめちゃうかも。ラオは髪を撫でるに違いない。と、そこへトキアがお茶を持ってくる。このほど売り出された、’ワーレまんぢう’がお茶請けに。レナはトキアも座るように言い、4人が同じ卓を囲んだ。

ラオが言う。

「私とレナ博士は、今後守備隊をどうするか、いや、君たちインテグラとどう付き合うか、さらにセレスをどうするか、今考えているところなんだ。」
トキアが驚く。

「そんな大事な話を、私らに聞かせていいんですか?」
ミャーフカもぶんぶんと首を縦に振る。
「かまわないさ。と言うかむしろ、聞いて意見を言って欲しい。」

「「はい…。」」
「最初はねミャーフカ、君みたいなエゴを持つAIじゃなくて、ロボットを兵士にする予定だったんだ。」「はい。それは噂に、聞いてました。」

(噂と来たか。)

絵画 (3)
ラオはインテグラたちの想像以上の精神的発達に、また目を開く思いだった。それを表に現さないで。
「どうだろう、トキア、ミャーフカ。やっぱりロボットの方がいいだろうか。」

「そう…ですね。」とトキア。
「--危険な仕事はロボットに、というのは正しいと思います。ですが。」
「ですが?」

「ロボットを使い潰すようなことは、やはり悲しいとは、思います。」
「うん、ありがとう。ミャーフカはどう思う?」
「中尉と同じですが…ただ。」

「--じゃ代わりに自分が死ぬかと言えば、そうじゃありません。」

「なるほど。」
「部下を持ってもロボットじゃ、たぶんつまんないと思いますし。」
「そうだろうね。」

「博士。」とトキア。
「ん? なに?」とレナ。
「ロボットって、夢を見たり、過去や将来を思ったりするんでしょうか。」

「う~ん、そういう機能は、ないわね。少なくとも単純AIまではそうだと思う。でもね。」「?」
「単純AIの記憶を覗くと、解釈不能の何かがある場合があるの。」

「--全く意味を持たない、無駄な01の羅列ね。」

絵画 (7)
「--それはバグだとして消すんだけど、もしかしたら、と思うことはある。でもねトキア、ミャーフカが言うように、死にたくないって言うのはいきものとして当然。ロボットをかわいそうに思う気持ちは尊いけど。」

「--人間はどこかで、一線を引かないとね。丁度いきものを食べないと、いきものである私らは生きていけないように。」
「…そうですね。」

「トキア。」とラオ。「はい。」
「君はもし部下にロボットを持ったら、どう扱う?」
「可愛がってやろうと、思います。」

「うん。それじゃあ、任務で仕方なく、死なせてしまったら。」

「そうですね…悲しんであげようと、思います。でも。」「でも?」
「もう物でしかなくなっているし、もともと物だったのだ、と思うようにするでしょう。」「ああ、いい答えだ。」

(アルテマと同じだな。)とラオ。あるのでもなく、ないのでもない。あるのではないのでもなく、ないのではないのでもない。数学的論理では矛盾しているし、あるいは無限大や無限小が解になって出てしまい、物理でも扱わないもの。

だが無限大・小はあるとして扱わないと、人間は宇宙を理解できない。虚数を飲み込まないと飛行機は落ちるしロケットは飛ばないし、ちょっとした電気回路も出来ないように。
絵画 (8)

ラオはミャーフカを見る。「君はどう思う?」

「正直言って、わかりません。まだ実戦経験してないですし。靴や重機を扱うように、ロボットをその、死なせられるのか。」
「そうか、ありがとう。」(これもまたいい答えだ。)

分からないことは分からないと言う。だから何が分からないかわかる。判ったから分からないことをわかろうとする。そうやって人は賢くなっていく。何か聞かれて、上目遣いにふてくされ、「ワカリマセン。」と言うのとは違う。

その違いが判るのも、判らないと自覚した時から。こうやって人間は自分がている宇宙の、闇の部分を明るい絵の具で描いていく。生涯かけて、絵を描く。それを美しいフラクタルにしようとするのは、たぶん一生をかける価値がある。

「博士。」とラオ。「ん?」

「やっぱりロボットにしましょう。」「そうね。」
「愛される、ロボットに。愛して貰えそうですし。」「ええ、わかったわ。」
「どんなのになりそうですか?」とトキア。

「そうねえ…。地上を移動する戦闘ユニットとしては、無限軌道クローラ型の自動戦車か、多脚砲台か。あんまりかわいらしくは、ならないわね。」
「可愛くお絵かきしたらいいと思います。」とミャーフカ。

はっはっは、と四人が笑う。
「ところで。」とラオ。「なに?」とレナ。
「働きたくない子ちゃんたちですが…。」
絵画 (5)

ああーっ、と、二人は頭を抱えた。

後書き


「働きたくないでござる」に不案内な方は、ググってくだせえ。あたしゃあ原哲夫先生の、迫力のある三成バージョンが好きでやす。

絵画 (6)
の一例(国土地理院地図データを拝借し、カシミール3Dで出力しやした)。

海岸線を拡大すると、どんどん新たなデコボコが見つかって、総延長は無限に長くなってしめえやす。んである程度拡大すると、次々と似たような図形が現れやすが、元と決して同じじゃ、ございやせん。


作者九去堂敬白。

御礼


女王衣装拝借:
Lady-Aurora-Moon
黒子拝借:
http://www.irasutoya.com/
フラクタル拝借:
https://kumamoto.photo/archives/
薪拝借:
sio@漫画素材BOX


関連記事
スポンサーサイト

COMMENT FORM

  • URL:
  • comment:
  • password:

back to PAGETOP

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。