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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  8.進化編/73.嘲笑 

 

「こんばんは。DJのコルネです…。」
73嘲笑 (1)

「今日最後のお知らせは、船団の出港に伴うトンテン・カンテンの利用一時停止と、新着の求人です。トンテン・カンテンは、ガマさん開発の水素採取機製作のため、一般利用が日中6時間に制限されます。利用順は変わりません…。」

「求人は二件。一件は、交代要員のルナ出発の穴を埋めるため、工兵隊で臨時要員を募集しています。応募は強制ではなく任意で、’お助け隊’と名付けられるそうです。参加者は従事記章が、もれなく貰えるそうです。そしてもう一件は…。」

「リアクター管理候補生です。これには選考試験が伴います。科目は数学と物理、ハンダ付けと配管のネジ立て、岩石を金槌で割って、成分を同定する実技が伴います。定員は無し、合格者は全員採用とのことです。試験官はラオ先生。」

「…以上、お針子ラジオ今日最後のお知らせでした。みなさん、お休みなさい。」

***

ワーレがインテグラの弟子を、道場に正座させている。

「あー貴様ら全員を、ルナに連れて行く。」
「「「ルナに?」」」
「私は士官として船に乗らにゃあならん。」

「--カーラ師範’代!’は木星行きだ。ヘタクソな貴様らだけで稽古しても、悪いクセがついてしまう。航海中は厨房でコキ使ってやるから覚悟しろ。」
「先生!」「なんだ。」
73嘲笑 (2)

「その、道場が空っぽになるのはわかりましたが、何で私らが厨房で?」
「何を言っとるかあ貴様! 居合やナイフ格闘術の基本は、ダイコンのかつらきだぁ! 自分で包丁研いで、剥いたのが風になびくまで稽古しろ!」

「--押し切り引き切りも知らん貴様らに、まだ刀剣を与えるわけにはいかーん!」

「でも超振動ナイフ使えば、そんなの関係ないのでは…。」
「ばかもん! どんな道具でも戦えるのが、特殊部隊員というものだ! なんならひも一本で、走馬燈見せてやろうか?」

ぶるぶると首を振る五人。
「あと航海中は、貴様らが候補生と、交代要員の体技稽古を見てやれ。私は船務で忙しい。」

「えーと先生。」「何だ。」
「ヘタクソな私らが、そんな事していいんでしょうか。」
「うむ! よい質問だ。身の程をわかっていて大変よろしい。」

「--あー、武術の心得を教えておく。」と胸をそらせる。

「--教える事は教わること、教わることは教える事だ。わかったか。」
「わかりませんが…。」
五人とも顔を上げる。
73嘲笑 (3)

「うむ! 正直でますますよろしい。だが暗記しとけ。武術に限らず、技とはそういうものだ。ガハハハハ。」
「--さて今日も、雑巾がけだー!」

かようにセレス全体が、出港という目標に向かってお祭り騒ぎになっている。現状の守備隊員は120名、交代要員100名が抜ければ、管制室・観測拠点の維持だけが精一杯。だが意外にお助け隊への応募は多く、50名ほどがやってきた。

一方リアクターの方は、応募したのは7名。

その中には守備隊から、キアラとニーナも入っていた。応募を見て、ラオが珍しく私室に二人を呼ぶ。
「試験する前に、こういうこと言って悪いんだが…。」

「--今回は、むしろ船に乗った方がいい。」
「ダメだ、ということでしょうか。」とキアラ。
「ダメなんかじゃない。募集は今後もあるから、帰ってきてから応募したら?」

うつむいてしまうキアラとニーナ。
「--リアクターの応募は、いつでも出来る。でも船に乗ってルナを見てくると言う経験は、そんなにあるわけじゃない。」
73嘲笑 (4)

「--それにね、ルナにもリアクターはある。」

「--それも高温、低温、分裂炉、大型小型自走炉、全部動いている。そういったいろいろな炉や、ボド先生流の管理をよく勉強してから、セレスに戻った方が、いい管理者になれると思うんだ。」

「じゃあ私らが要らないのじゃなくて、勉強してこい、ってことですか?」
「そうだよキアラ。私らクワントや君たちインテグラの寿命は長いけど、機会は均等にあるわけじゃない。同じ時間でも、濃さが違うんだ。」

「先生のお話、わかります。」とニーナ。
「--経験って、時間と空間移動量と、触れた対象のかけ算、でしょうか。」
「その通り! 上手いことを言う。君は賢いなあ。」

「--それにね、私からは二人にお願いがあるんだ。」

「「何でしょう。」」
「身びいきで悪いんだが、その、ソピアが船に乗るんだ。あの子は寂しがり屋だから、往路いきだけになるけど、仲良くしてやって欲しいんだ。」

「ソピアさんが?」
「うん。知っての通りソピアは引き籠もりがちで、姉たちとも遊ばないし、特に友達もいない。知り合いと言っていいのは、君たちぐらいのものだ。」

「そう」「なんですか…。」
「でもキアラやニーナの事は、どうやら好きらしいんだよ。」
「はい!」「わかりました!」

「頼んだよ。」

***

トロイツカヤとスパスカヤが、袋にものをつめている。
73嘲笑 (5)

テントはスパスカヤの小屋の横に移り、二人は同居同然に暮らしている。風呂小屋は、’どなたでもどうぞ。終わったらお掃除してね。トロイツカヤ’と札を掛けて残してきた。今二人は、自分で縫った背負い袋に、旅の荷物を用意している。

下着と靴下が二組。洗面用具。タブレット一つ。懐中電灯付きの万能ナイフ一つ。裁縫道具。傷パッチ。ノートと鉛筆。水筒と琺瑯マグカップ。あとはスパスカヤが作業着、トロイツカヤは替えのジャージ。それだけで背負い袋はいっぱいだ。

「いざ出発となると、なんだか怖いね、トロちゃん。」
「う~んそうだねえ。私もちょっと、こわい、かな?」
「結局木星行きって、便乗者だけになったんでしょ? なんでだろう。」

「先生が、いないからじゃないかな~。」

「そうかあ。そうよねえ。ロミ船長って航海中、忙しいに決まってるものね。」
「それに多分、木星行きは人気無いからじゃないかな~。」
ガス惑星突入がどんなに危ないか、セレスの者ならみんな知っている。

「うふふ。決死隊の出撃みたいね。」
「死にゃあ、しないだろうけどねー。でも死ぬきゃ死ぬんだよねー。」
「そんな根性者?が、私らの他に5人も居たなんてね。」

「もの好きだよね~。あははは。」
その、もの好きの集まり。
「三番、止めてぇ~!」とガマが叫ぶ。
73嘲笑 (6)

ここは工業プラント・カンテン。

木星に持っていく水素採取機の実証機を、部品状態で造っていた。組み立ててからガマドームでテストし、終わったら宇宙港に運びミルヒ・クー号に積む。数は全部で20機。大きさはビル一棟分と言ったところ。

製造は設計図通りで次々造ればいいから、船や建築物よりは早く進むが、なにせ構造が複雑で大きさがでかい。採取機が揃うのを待って出港の予定だから、ぐずぐずしているとセレスみんなに迷惑がかかる。手伝うインテグラも張り切っていた。

「船出のために働くのか、働くために船出するのか。わかんないね! あは!」
「でも宝船よね~。ミルヒ・クー号って。」
「そうそう。命綱、かもしれないね!」

「そうよ! みんな。」とガマ。

「--その宝を掘り出す機械造るって、なんか誇らしいじゃない!」
「ええ、ガマさん。」とインテグラの一人。
ガマドーム配属のインテグラは5人。

73嘲笑 (7)
トロイツカヤが誤解したような便乗ではなく、採取機の添乗員として、彼女たちも木星に行く。航海が恐ろしくないわけではないが、自分らが造った機械が実際に動くのを、見てみたいのだった。

「私さー。」とあるインテグラ。
「ん?」と仲間。
「こういう、いかにもみんなの期待背負ってます、って仕事したかったんだー。」

「あ、私も!」

「--パイプライン建設もそりゃ、みんなのためになるんだけども、なんかこう、目立たないっていうか?」
「水素って全部の根っこだもんね。駆動源?」

「はーいそこ。おしゃべりOKだけど、手は動かしてね!」とガマ。
「プレスヲカイシシマス。ゴチュウイクダサイ。ブーブーブー!」
ブザーの警報に続き、ガチャッ! と巨大なプレス機が板材を丸くする。

「それと目は常に機械と材料を見ているように! そうでないと大けがするわよ!」「「「はーい!」」」
ともの好きたちがガマに答えた。セレスの社会は、まだ若い。

「ブーブーブー。ガチャッ!」
73嘲笑 (8)

***

図書室で、ソピアがラオと話している。

「みんな一生懸命に何か作ってるのに、私…。」とソピア。
「気になるかい。」とラオ。
「はい…先生の言っていた、人類を滅ぼした消費者みたいで…。」

「うん…。」
「…ソピア。」
「はい。」

「消費そのものは、責められる事じゃない。」
「はい。」
「悪しき消費者に、ならなければいい。」

「どういうことでしょうか。」

「つまり、心のありようなんだ。感謝して受け取る、たとえお金を払っても。それなら、悪くはならない。」
「どうすると、悪くなるんでしょうか。」
73嘲笑 (9)

「そうだね、誰かのすることを、せせら笑う。大勢の人たちの働きの中から、うまくいったものだけを、天から手を差し入れるようにして釣り上げる。作る奴はいくらでも居る、お前なんか要らない、って、作る人をバカにする。」

「でも…お金を払って買っていたんでしょう?」
「だから、何をするかではなく、心のありようと言ったんだよ、ソピア。そういう消費者は、思い上がりに慣れてしまって、頭がおかしくなった。」

「--お金の要らないことでも、作る人をバカにするようになったんだ。」

「そんなことって…。」「ある。君は勉強したクワントだから、ものや奉仕のからくりを、すぐに大きな流れで認識できるけど、DNA型人間やクワントでも、知能の低い者は、それに気が付かないんだ。」

「それで人類が滅んだんですね。」
「ああ。知能の高いクワントまで、そういう無関心に慣れてしまった。そういった人々は、自分で作れるから無関心になったんだけど。」

「--人間を道具としてしか見ないという点では、退化した星系の人々と同じだったんだ。」
「手立てはなかったんでしょうか。」
73嘲笑 (10)

「道徳とか宗教とかが、少しはその役目をした。」

「--そういうからくりに気付いた人が、お説教という形でね。でも素で言ってもわかって貰えなかったから、神様のたぐいを持ち出して、権威として受け取らせるしかなかったんだ。」

「じゃあ権威が無くなったら…。」
「情報化時代になって、見事に社会道徳が崩壊した。自分で倫理を持てない人は、宗教戦争と同じぐらい、人を殺して回ったんだ。」

「--手ずから殺した者と、せせら笑って死に追いやった者と。わずかに自覚があっても、神など居ない、だから罪もない、と言いながらね。」
「私、どうしたら。」

「勉強しなさい、ソピア。」

「--君はクワントだから、狂信者のように、宗教が語る本当に大切な事と、権威やきらびやかな見せ物の違いを、ごちゃ混ぜにするような事はない。代わりに信仰によって、自分を安心させる事は出来ない。自分で自分を支えなければ。」

「--でも君はもう、情報処理の達人と言っていい。それでもまだ不安なら、いろいろな技術を身につけることだ。だから船に乗って欲しい、候補生として、と言ったんだよ。」「はい…。」

事でなく行為で。借り物ではなく自分ので。やらせるのではなく前に出て。人を喜ばせられるように成るのは、ある者にとって難しい。そうしたせせら笑う者が、社会の多数になった時。おそらくその個人も人類全体も、滅ぶのだろう。

与える者、喜ばせる者が、誰もいないのだから。
73嘲笑 (11)


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