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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  9.漂流編/84.戦時 

 

クワント一つで宇宙を飛ぶタフィ。
84戦時 (1)

光速艇は完全黒体化したらしく、見つからない。だがタフィは艇を追うつもりはなかった。観測された電磁波の発信源は二つ。一つは公転面から移動しており、一つは軌道上を動いている。ならば先住者の本拠地は、後者のはず。

クワント状態のタフィは超光速も出せるが、出せば時間を遡る事になり、自分が何のために飛んでいるのか忘れてしまう。光速を超えないよう気を付けながら、セレスに方角を向けた。彼女の5つのエゴを、全て覚醒させながら。

飛ぶに専念する一つを除き、あとの4つを二組のペアにする。どうすべきか、の解を得るため。質量のないクワントのタフィは一瞬で光速まで加速し、一瞬でセレスを目の前にして停止した。エネルギー解放の効果でまばゆい光を発するタフィ。

続けて元宇宙での、救難信号を放った。

その光は、セレスの観測室からも見えた。指揮を執っていたナガラが、即座にラオたち人間クワントに報告する。会おう、と合意が出来て、ラオはアルファーを連れて、急ぎ宇宙港の一室に向かった。船長ロミと検診中のレナ博士は。

イチゴ彗星に居たが、二人もサーラ、イチゴー、トキアを伴って宇宙港に向かう。管制室で当直に就いていたゼルタは、セレスで最初にタフィと話す。タフィは元宇宙で使われていた言語を次々と取り替えて、ゼルタに話を通じさせようとする。

「のにょこにょぺの、ほのもろにょここりょ。」
「「「…。」」」
じっとこらえるインテグラ。だが一人が笑ってしまい、大爆笑となる。

機転を利かせ、マイクのスイッチを入れていなかったゼルタ。

微妙な間を感じて言語を変えるタフィ。
「ちいふぁんらま。ちぇえしいちょいちゃんちゅんちん、ちょんちゅうはお。」
過去、話者人口の大きかった言語を使ってみたのだが。

84戦時 (2)
管制室のインテグラの中には、腹をよじっているのが出始める。指揮官のナガラまで、机に突っ伏していた。普段冷徹な顔をしているのは、わざと作っているのかも知れないとゼルタは思う。無視はいかんと、「ブッブー。」とブザー音を返す。

(…ならば。)とタフィ。
「Здравствуйте! Я Аибореруская патриарха Тафий. Слушайте историю.(こんにちは、私はアイボレクの長、タフィ。話を聞いていただきたい。)」

北の言葉=セレスの軍事言語。やっと話が通じた。

***

「はじめからお国の言葉で話していただけばよかったのに…。」とラオ。

草原の言葉でタフィと話している。無論、ラオだけに会話に支障はない。港に出迎えたカーラも、はじめは北の言葉で案内したのだが、それと分かって途中から変えた。作戦上の必要から、戦闘AIカーラは語学の達者でもある。

「いや、かたじけない。」とタフィ。
彼女もまた、ラオたちの言葉で話す。奇妙な逆転だが、言葉一つ取っても相手に合わせようとする星系には、久しぶりに出会ったタフィ。

「--それより時間がない。あなた方に、危険が迫っている。」
情報量子を放つタフィ。受け取ったラオは即座に解釈すると、複製してここしばらくの情報と共に、ルナに居るボドへと転送する。

「管制室!」とラオ。「はい管制室。」

「ナガラ、セレス全てに警戒警報を。各ドームの反射率アルベドを今すぐ最高にしてくれ。クワントの侵入を防ぐ。観測衛星は捜索モードに。野外にいるインテグラたちはすぐに屋内待避!」「了解しました。」
84戦時 (3)

「--保安ロボットの殺傷権限はどうしますか?」
「…いや、封鎖のままでいい。攻撃されたら捕獲に止めるように。傷つけちゃ、いかん。」

まさかタフィを前にして、「殺せ」と言えるわけはないが、その必要も無かった。義体で来るにせよ、クワントだけかクリスタルに乗って来るにせよ、そう恐れる事態でもない。もし裸のクワントやクリスタルで来るのなら。

たびたびある太陽風の爆発と同じ。

受け流せば済むことだ。危険と言えば太陽風だって、相当に危ないから。だが戦闘AIが、義体で襲ってきたらどうなるだろう。
「タフィさん。」とラオ。

「なんだろう。」
「お立場上、話せないことはあるでしょう。ですがとりあえず、事態を無事に終わらせねばなりません。誰も傷つけずに。ご理解いただけますか?」

「ああ、もちろん。」
「ですからこれから私らが取る防御に、隙間があったら教えて下さい。」
「承知した。とりあえずは、万全かと思う。狙撃覚悟で飛び込みはすまい。」

かたわらにいたカーラが微笑する。
84戦時 (4)

「それで…定住地と医療をお求めなのですね?」
「うむ。」
「伝染病があるとなると、セレス地上には降りていただくわけにはいきません。」

「…もっともだ。」
「しばらく軌道上に止まっていただくことになるでしょうが、かまわないでしょうか。もちろん物資は、出来る限りお届けします。」

「かたじけない…それで、医療なのだが。」
「はい。返事に少し余裕を下さい。私は医師ではありませんので。もうすぐ、レナ・ウィルキマルティ博士がここに来ます。」

「レナ博士? あのルルチームの?」

「ええそうです。」
「それなら…どうか…お願い致す!」
タフィは懇願した。幸いにも三日月の末裔アイボレク・オウラルたちはここにいない。

「もちろん私はそう願っています。」とラオ。
「--ですが、出来ないことをお約束は出来ないのです。出来る見込みがあるといいのですが。」

そこへレナたち一行が入ってきた。サーラはロミの隣に控え、トキアはレナの前をかばうように立っている。
「あー君たち。」とラオ。

「「?」」

「大丈夫だから、その物騒なものを仕舞いなさい。」
サーラは拳銃を、トキアは戦闘杖を手にしていた。おとなしく従うサーラ。カーラもホルスターからそっと手を離す。
84戦時 (5)

だがトキアは「でも」と言う。
「大丈夫よトキア。」とレナがトキアの肩を抱く。
(ほう…これが生成主とAIか。)とタフィ。

「さて、話はずっと中継で聞かせて貰いました。症状について、詳しく聞かせていただけるかしら?」とレナ。
うむ、と情報量子を放つタフィ。

「うーむ、これは…即断は、出来ない。」とレナ。

「--でも出来る限りのことはします。いいわね、お二人、ボド先生。」
ラオとロミがうなずく。ボドからも「同意」の返信。
「まことに…かたじけない! 我らの悲願が…やっと!」

クワントだけだから表情は読めないが、タフィは泣きそうになっているのかも知れない。それとも族長として、威厳のある感謝の言葉か。セレスの一同は、気の毒そうにタフィーのクワントを見ている。カーラ・サーラ・トキアも表情を緩めた。

ラオが引き取った。「さて、それでは事態収拾を話し合いましょう。」
「うむ。だがどうも、貴殿たちは戦闘に慣れてそうにないが…。」
「ええその通り。ですがドンパチだけがいくさじゃ、ありません。」

「--私ら流に、やります。」とニヤリとした。

***

メエメエ。

ドームが銀色に光って外が見えなくなり、ヒツジたちが怯えた。大丈夫よ、とスベトラナとヴィタがヒツジたちをなだめる。一方ニワトリたちは環境の変化に気付きもせず、「コッコッコ」とのんきにエサをついばんでいる。

牧場ドームの床は農場ドームと同じで、土が敷いてある。その上に植物が育っているが、重力の小さなセレスでは、土には工夫が要った。ただ土を敷いただけでは、水分が上がってこない。セレスでは珍しい石油繊維で、その機能を補っている。
84戦時 (6)

スベトラナがヒツジを提案しても、ヤギを言えなかったのはそれがあるから。ヤギは根こそぎ食べてしまうので、繊維が引きちぎられてダメになってしまう。食べられた繊維もお腹の中で、どんな障害を起こすか分からない。

「敵襲、なんですよね。」と怯えたスベトラナ。

「んー。そうだねー。」とヴィタ。
「--でも心配ないと思うよ。危ないことは危ないけど。」
「どうなるんでしょうか。」

「だからね、気を付けていればいいと思うよ。どんなクワントか分からないから、しばらくスベちゃんは建物の中にいる方がいいかな。」
「どうしてでしょう?」

「うーん、体乗っ取られるかも知れないから。話じゃエゴがせいぜい3本と言うから、私は何とか抵抗できるだろうけど、スベちゃん1本だけだよね。乗っ取られた後回復できるかどうかも分からないし。」

「怖い…。」とさらに怯えるスベトラナ。

84戦時 (7)
「大丈夫よ。守ってあげる、とまでは言えないけど。外は私がやるから、スベちゃん納屋でヒヨコの面倒見てあげて。できれば防護服、着ていてね。あと念のために、あなたの記憶を情報素子に複製しておいて。」

もっとも、ヴィタも戦闘AI相手に勝てるとは思っていない。だが本当に危なければ、クワントだけ飛び出して逃げることもできる。それができないインテグラのスベトラナを、まず守ってあげなければ。手の平の小さな円筒を握りしめるヴィタ。

検診棒改造の、小型武器だった。ヴィタはこの手の細工が得意で、しかも勘がいい。エゴの3本はそれぞれ、指揮・防御・攻撃を分担できる。しかし戦った事も、本気でケンカした事もない。彼女もまた、怯えて当然だった。

一方農業ドーム。

「さあさあみんな、窮屈だけど防護服着てね。」とマーイ。
こちらも怯えたインテグラたちが、マーイの回りに集まっている。人手が減るから生産が落ちるわ、とマーイは覚悟したが、それより守りたいものがある。

「まず大事なのは、あなたたちの安全よ。だからこの作業棟にしばらくは籠もって、機械を遠隔操作してね。できるだけで、いいから。」
「マーイさん! もし中まで入ってきたら…。」

「大丈夫よ。私が守ってあげる。」
マーイが武装し電撃杖を手にしているのを、初めて見るインテグラたち。
「--こういう危険は、何度も経験したわ。だから、大丈夫。」
84戦時 (8)

次に庭園ドーム。

スパスカヤの小屋に、インテグラたちがひしめいていた。そのスパスカヤはトロイツカヤと一緒に、外から窓に、トタン板を釘で打ち付けている。二階との差分の天窓には、気付き者のインテグラが合成木版をはめていた。

「さーて終わったら、みんなで駅に行こうか。えへへ。」とトロイツカヤ。
「え? ここにいるんじゃなくて?」と、とあるインテグラ。
「だってえ、あっちは先生たちの居住棟にも繋がってるし。」

「じゃあなんで、板なんか打ち付けるの?」
「うーんとねえ、居ない間に忍び込まれるといやだから。」
「でもドームには入ってこれないでしょう?」

「うん。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。」

「--でも板はめる程度でいいことになるなら、やっておいた方がいいかなー、って思って。」
と、最後の板を打ち付け終わったトロイツカヤ。

小屋を閉め、スパスカヤと共に一同をなだめながら、歩いてバス駅に向かう。背負い袋に木星行きと同じあれこれ、さらに毛布を丸めて輪にし、肩から斜めに掛けていた。インテグラたちも皆同様に、それぞれ身の回りのものを持って。
84戦時 (9)

セレス初の、戦時風景だった。

御礼


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