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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  9.漂流編/88.青天 

 

88青天 (1)
アイボレクの本船が、セレスの軌道に乗った。

救援に向かったサーラたちは、感染防止を考え曳航してきた。ミルヒ・クー号よりさらに巨大な船は、タマとツツをいくつもくっつけた形をしている。不格好ではあるものの、必要資材にも力学にも無理がない。大気のほとんど無いセレスからは。

その姿が地上からよく見える。「おっきいねー。」「変わってるね-。」見物のインテグラたちが声を挙げる。一方、離反者レヤーンたちの光速艇もまた、本船とつかず離れずの距離で軌道を回っている。やはり帰りたいのだろうか。

ルナもセレスも、平時体勢に戻った。終わってみればお祭りのようなものだったとインテグラたちは思うが、のんびり過ごすわけにもいかなさそう。セレス・ルナ合計約300名。それよりずっと多いオウラルたちの、受け入れ準備をしなければ。

「聞き分けてちょうだい、トキア。」

宇宙港でレナがトキアをなだめている。感染の怖れがない人間クワント・ロミと二人だけで、アイボレク本船に乗り込むレナ。危険ですどうしても付いていきます、と大砲担いで言い張るトキア。かたわらには仮クリスタルのタフィもいる。

「--失礼でしょう? タフィ閣下にも船長にも。」とレナ。
「--船長が連絡艇を飛ばすのよ? レーサーが三輪車乗るようなものよ?」
「そりゃあそれで、難しいでしょうがねい。」
88青天 (2)

タフィは黙ったままでいる。安全は保証のどうのと、言っても無駄な事は言わない方がいい。煎じ詰めれば、トキアは甘えたいのだと分かってもいたから。母が娘を甘やかす。いい景色ではないか。私にAIは生成できないが…。

トキアのむくれ顔という珍風景。それに見送られて3人は艇を飛ばした。

「お帰りなさい、族長テュレイ。」と副官イェテルが一行を出迎える。運ばれてきた義体にタフィが乗ると、3人を先導してツカツカと歩く。まわりのオウラルたちが腰をかがめる中、質素な族長室へと入っていった。

「まずは楽にしていただきたい。作業室は、今用意させている。」とタフィ。
「ええ…。」とレナ。
「--でも検査などの作業は持ち帰って、ハシケの診察室で行います。」

「誰かオウラルを連れて行くというのだろう? 要らぬ勘ぐりをする者が出かねないから、本船に機器を運び込んだ方がいい。」
「ずいぶん、自信がないんですね。」

「まったくだ。」と困り顔のタフィ。

「--気を回せるなら、合理の方にとんがってくれればいいのだがな。オウラルはどうも頭が悪くて困る。人間の知能って、どうしてそういう、まず疑ってかかるとか、相手は悪党だと思うとか、要らぬ方向に進んでしまったのだろう?」

「それが生物として、人間を生き延びさせたのですけどね。」
「ああ、弱いからな人間。」
「何事も疑ってかからなければ、とっくに滅びてましたよ。」

「安心安全など、そうそう転がってはいないものだ。」
「ええ。ですがスペック的にはともかく、トキアだってあの通りです。何もオウラルだけの問題じゃありません。」

「それで、ああなったんだがな。」外部ディスプレイから光速艇を眺めるタフィ。
88青天 (3)

「どうなさるお積もりです? 彼女たち。」
「放置するしかないな。アルファー君が言ったように、時間はたっぷりある。しばらく宇宙で頭を冷やせ、ということだな。」

「狭い空間に置いておくと、カルト的な暴発をしかねませんよ?」
「知らん。そうなったらなったで、あの者たちの選択だ。」
「族長として、それでよろしいのですか?」

「いや、いいんだ。太古の遊牧の世なら、叛徒も敵も吸収して勢力拡大、というのは正しい。だがこの宇宙で拡大などして何とする? 生きているだけで上等、と思えねば、また元宇宙の繰り返しだぞ? 博士ならおわかりだろう。」

「ええ確かに。でも暴発すれば、側杖そばづえを食います。」

「背いた奴の面倒まで見切れるか。軌道上にいるんだ。妙な動きをしたら、エンジンを狙撃すればいい。重力の枷から、抜け出すのは不可能だ。」
「クワントだけで出てきたら?」

「大したことは出来ない。インテグラ君たちを乗っ取ろうとするかも知れないが、またドームの反射率アルベド上げれば済む事だ。セレスの諸君にはご苦労ではあるがな。さかりのついた動物と同じだ。暴れたい者は、暴れ疲れさせるしかない。」

「教育、出来なかったんですね。」
「その通り。言う事を聞かせるには、私が勝ってみせるしか仕方がなかった。しかもその感覚をすぐ忘れる。勝ち続けるしか、オウラルをまとめる手段はない。」
88青天 (4)

「そうかしら。」

「んん? 博士には何か妙案がおありかな?」
「妙案と言うより、質と量の事実ですよ。DNA型人間にも、摂理のなんたるかを悟った賢者は大勢いました。」

「悟ろうともしなかったその他大勢が膨大だがな。」
「でも賢者の生体脳スペックは、オウラルたちより劣っていた事も事実です。なのにエゴを無数に持っていたのではないか、と思われる例さえあります。」

「そうだろうな。」
「確かに、賢者の脳は、もう検診のしようがありません。ですからむしろソフトウェアに着目すべきでしょう。オウラルたちに可能性がないとは言えません。」

「はっはっは。またもや手厳しいな。」とタフィはさらに続ける。

「--私も時代の子でね、合理が過ぎて無関心がまさっている。同胞よりちょっとだけ、焼き潰す相手に哀れを感じていただけだ。オウラルたちに対してもそれは同じ。いちいち手取り足取り、考えを変えさせようとはしてこなかった。」

「それはわかります。私も、教師に向いた人間ではありませんから。…ええと、この話退屈ですか?」
「いや? 興味深い。なにせウィルキマルティ先生のご講義だからな。」

「では続けます。…変化って、真夏の晴天の雷雨のようなものだ、と聞いた事があります。雷のエネルギーは溜まっているのに、日差しはちっとも衰えない。」
「ほう。初耳だ。」
88青天 (5)

閾値しきいち、ということです。」

「--カンカン照りに何か小さなきっかけを与えてやると、たちまち氷粒が集まって雷雲が出来る。摩擦で電気も溜まる。そうなれば一挙にザンザン降りにピカ、ゴロゴロです。人間の意識も、これと違いはありません。」

「ふむ。オウラルたちが、変わりたがっていると?」
「それはまだ診ていない私には、分かりません。ですがさなぎになるのも船出をしたのも、彼女たちが変化を受け入れた、と言う事に他なりません。」

「変化を恐れるな、と博士はAIたちに教えているそうだな。」
「その通りです。過去、DNA型人間も情報化時代に入って、それまで考えられもしなかったような数の者が、摂理のなんたるかに気が付きました。」

「そうでない者が圧倒的多数だったではないか。」

「ええ。でもそれ以前よりは、明らかに多数の人間が知りました。その事実は気が付かれていたのに、広める方法がなかっただけです。ですが情報を与えれば、知りました。その割合が閾値を超えて、社会は変わりました。突然にです。」

「うむ…。」

「いくらカネや太鼓叩いて雨乞いしても、雨は降らない。でも飛行機や打ち上げ弾で、微粒子撒けば一発です。小雨かもしれませんが。望ましい変化を受け取りたいなら、事実をありのまま見るように、自分で色眼鏡を外すしかありません。」

「その太鼓を叩きたがるのだよ、オウラルたちは。」
「叩き疲れるまで、叩けばいいでしょう。お前も叩けと言われたら、いやそれ違うから、と言うだけです。船出はそうだったんじゃありませんか?」
88青天 (6)

「…あの時ばかりは、しつこく言ったな、イェテル。」とタフィ。
「はい…よくもまあ、皆付き従ったものです…。」とそばに控えたイェテル。
どれほど気の遠くなる時間、タフィは説得したのか。

「あれで私は、やる気を使い切ったのかも知れん。」とタフィ。

「閣下にもう一度、とは言いません。幸いにも教え魔が居ますから。」
「ラオ殿だろう?」
「ええ。彼のAIたちをご覧になったでしょう?」

「オウラルたちも、あのようになれればいいのだがな。」
「どんなAIだったのですか族長?」とイェテル。
「我らに無い能力だ。部族のありようもな。そなたも一回、見てみるといい。」

「そのためにもまずあなたから、診させて頂ける?」とレナ。
「族長?」とイェテル。
「ああ。お願いしろ。」

「はい。ではお願いします。」

作業室が整った。レナはイェテルと共に、作業室へ向かう。護衛も兼ねているロミは後に続こうとしたが、「女の花園よ? 船長。閣下のお話相手を。」と言われ族長室に止まった。何かあってもレナなら、クワント一つで脱出できるだろう。

それに今は、用心してレナは義体に乗っている。卓を囲む二人の元へ、給仕のオウラルが酒肴を持ってきた。ほう、と目を見張るロミ。酒はワインと、蒸留酒だろうか。サカナはかなり豪華で、どうやらヒツジの焼いたのらしい。

88青天 (7)
「豪勢でやすねい。」
「普段からこうではないがな。客人にケチケチしてはみっともない。」
「普段は?」

「乳製品が多いな。ああ、その火酒は乳酒アラックだ。」

「ほう…。」
さすがのロミも初めて。
「--では、いただきやす。」

「過ごされよ。私も肩の荷が下りてほっとしている。今日は飲むつもりだ。」
「ほう。お強いんでやすかい?」
「私がと言うよりこの義体がな。だいぶガタが来ているが。」

「博士に診て頂いたらよろしゅうございやしょう。」
「そうだな…ところで博士は飲めるのか?」
「あい。お強くは、ないんでやすがねい。お好きでは、ありやす。」

別室で、レナはハンドスキャナをイェテルにかざしていた。

御礼


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