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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  10.合流編/93.決戦 

 

敵襲警報に、急ぎ管制室に向かったラオ。

93決戦 (1)
ソピアは図書室に残し、トロイツカヤとスパスカヤは付いてきた。管制室には特に入室制限はなく、入りたければ誰でも入っていい。当直はオキノ、その下に10名ほどのインテグラがコンソールの前に座っている。さらに続々と人がやってくる。

アルファー・ゼルタのように仕事に来た者もあれば、見物に押しかけた者も居る。二度目の敵襲で、配置のない者は様子を見てから、どこへ行くかを決めようと思っているのだろう。ゼルタは通信をインテグラと交替し、アルファーはラオの隣に。

「オキノ、概要を。」とラオ。
「はい。太陽公転方向と反対側、約1.6光年に、多数の空間転移を観測。」
「数は?」

「最大800。」

800! と管制室にどよめきが起こる。
「そんなに見つかったということは、黒体化せずにいるの?」
「はい。さらに通信が一方的に、音声のみで。」と困り顔で録音を再生。

♪ぼわ~ん。ぺお~ぱお~。ちゅんちんちゅんちん。
「「「あははははは。」」」と見物のインテグラ。
「なんだこれは。」とラオ。

「これはイントロです。続きがあります。」とオキノが先を聞くよう促す。
「…太陽系の者ども。私はキンカ帝国軍宇宙艦隊司令長官、チャンチンホイ上級大将である。我が帝国に降伏せよ! しからずんば攻撃するのである!」
93決戦 (2)

金華キンカって…ハムなの?」「じゃあ下級大将もいるの?」と見物けんぶつインテグラ。

「…我々は皇帝陛下の勅命を奉じ、お前たちに陛下への服属の栄誉を与えるため、やって来たのである。大御心おおみこころに感謝せよ!」と流暢なセレスの言葉が流れる。
「これ生音声? オキノ。」とラオ。

「いえ。生で流すと仕事になりませんから、翻訳音声です。」
「元は?」
「いいんですか?」パチッ。

「…に~いたあうぉ~。うぉ~おたあに~。」
「「「あははははは。」」」
「わかった。もういい。」とラオ。

船長ロミがやってきた。ラオが問う。

「聞いた事あります? キンカ帝国とか。」
「さぁー。初耳ですねい。でも800となると、相当に大勢力なんでやしょうねい。…持ってる道具の割に、ベラボーな事しやすねい。」

「…もったいない。」とサーラがつぶやいた。転移にとてつもないエネルギーが要ったはず。
「それで帝国軍は、そこで何しているの?」とラオ。

「はっきりとは観測できませんが、しきりに光を放っています。」とオキノ。
「なんだかよく分からない人たちだなあ。転移の技術まで持ってるのに、そんな目立つ事なんかして。」

「目立たないと死ぬ病気にでも、かかってるんでしょうか。」とアルファー。

「どうなんだろう。言ってる事が本当なら、皇帝が居る事と言い、こういう押しつけがましさと言い、言葉の仰々しさと言い、上級大将ドノも止むに止まれずやらされている、と考えるのが妥当だけど…。確かに一種の病気ではあるね。」

そこへ通信が入る。
「ラオ殿。」
「ああタフィーさん。」

「敵襲のようだが、もちろん助太刀するぞ?」
「う~ん、多分大丈夫です。そちらも船の修理に忙しいでしょうし。」
「またエンカか?」
93決戦 (3)

「はて、今回は何と言うか、すこし病気の人たちのようですから。」

「困った奴らだ。」
「たぶん演歌じゃ効き目がないでしょう。」
「どうされるおつもりか。」

「今、安上がりな方法を考えています。」
「思い付かなかったら、やっぱり加勢するぞ?」
「ありがとうございます。」

「--でもそれより離脱者のレヤーンさんたちが、どっか飛んでいかないように見張ってて下さい。」
「心得た。」とタフィーは通信を切った。

光速艇にセレスほどの観測機能はないだろうが。

レヤーンたちはいずれこの情報を知る。いや、多分すぐにラジオで流れる。もう知っているかも知れない。カンヅメになっている彼女たち。突拍子もない事を始めないとも限らない。ところがタフィーは、想像以上に短気のようで。

さっさと光速艇のエンジンを狙撃して、動けなくしてしまった。その様子はこの管制室でも、スクリーンにパッと散る光と共に見えている。
「…もったいない。」と再びサーラが言う。
93決戦 (4)

「さて、どうしやすかい。」とロミ。
「おとなしく帰ってくれそうには、ありませんね。」とラオ。
「--追っ払うしかないですが。なるべく犠牲が少ないとなると…あ、そうだ。」

「--ガマ? どこにいる?」

「はいガマです。キララのリアクターにいます。」と元気な声。
「水素採取機開発の、ガラ…エヘン、試作中断品って、いくつぐらいある?」
「112個ありますが…。」

「貰っていいかな?」
「ええどうぞ。何するんです?」
「セレスから放り投げちゃうけど、ごめんね。」

採取機には気球が付いている。オリガミ状に畳まれて、膨らませば直径10kmにはなる。用途のないまま、ガマドームの外に積み重なっていた。もったいないから再利用しようと誰かが言い出したが、ガマが嫌がってそのままになっている。

ラオはおもむろに。「あーセレスのみんな。」と全体通信を入れる。

「--おかしな人たちが攻めてきた。この前と同じように、怖かったら隠れていていい。ご苦労だけど守備隊は配置についてね。それでちょっとしたいたずらをするから、興味があったらマスドライバー1号に集合。今のところは以上。」

***

軌道上に荷を届けるため、セレスにはマスドライバーが設置されていた。地下に埋まった巨大なモーターに、腕が付いただけの簡単なものだが、腕先に荷物をくくりつけてぶん回す。望みの速度が出た所で、くくりを放して放り投げる。
93決戦 (5)

軌道速度なら、荷は勝手に軌道に乗る。そこへ船団ロボットやオウラルたちがやってきて、荷を回収して彗星や船に戻る。もっと回せば宇宙に出て行く。重量物を打ち上げるには効率がいい。荷物だけだから、乗客が目を回す心配もない。

一方、ラオの言葉を聞いたインテグラたち。

なんだろう、と特に配置のないインテグラたちが思う。でも面白そうだから、ということで、続々とマスドライバーに人が集まる。無論、やっぱり仕事した方がいいやと、救護隊やお弁当屋に向かうインテグラも居る。好き勝手が許されるセレス。

帝国軍が体勢を整えセレスに来るまで、たぶん数年は時間がある。セレスのボドはいつも通りお籠もり、と聞くと、ラオは管制室を出てマスドライバーに向かった。集まったインテグラたちを前に、いたずらの概要を説明し始めた。

「タマの中に石を詰め込んで、鎖で2つセットにして放り投げる。」
「「「どうなるんですか?」」」
「回転しながら飛んでいく。そしてあちらさんは集まっている。」

「「「危ないから避けようとしますよね。」」」

「うん。そこで重力感知で、好き勝手に吹くエンジンをタマに付けておく。」
「「「うわぁ…。」」」
「予想進路が分からないから、あちらは右往左往するハメになる。」

「「「船同士ぶつかったりとか…。」」」
「当然、それもある。攻めるのどうのと言う前に、まず身を守ろうとする。」
「「「それで帰ってくれますかねえ。」」」

「それは、わからない。だから二の手、三の手は考えてある。さあ、あんまり時間がないから、みんなで手分けして仕事を始めてね! いたずらでケガしたらつまらないから、作業には十分、注意して。指揮を頼むよ? アルファー。」

「はい、先生。」とアルファーが微笑んだ。

***

だいたい3年後。帝国軍が、整然と艦を連ねて押し寄せてきた。
93決戦 (7)/豊かな島

「堂々たるものだね。」とラオ。
「行進のキビキビした軍隊ほど弱い、って聞いた事ありますよ?」とアルファー。
「ははは。石頭です、って言ってるようなものだからね。」

「通信入りました。」とゼルタ。
「うん、繋いでくれ…とその前に。みんな、笑っちゃいけないよ?」
聞こえるといけないから。はーい、と一同が返事する。

「それとゼルタ、帝国くんの旗艦を特定してくれ。」
「くん? …わかりました。話、引き延ばして下さいね?」
「ああわかってるよ。」とラオがニヤリとする。

「…太陽系の者ども! 返答の時間は十分与えてやったはずである。」と音声。

「へへーッ! お初にお目にかかります。私が今月の代表者でございますが。」
「こ、今月? …う、うむ、殊勝である。それで返答はどうであるか。」
「困ってるんですよねー、ウチも。」

「何を言っているのであるか? 服属するのかしないのか。返答すべし!」
「いやー、今年は雨が多くてお米はもう…。」
「雨なぞ降らぬのであろう!」

「でもナスやキュウリなんかは…。」
「漬け物の話ではないのである。ふざけていると攻撃するのである!」
「だから困ってるんですよー。ウチは小さい子が多くて。」

「バカ者! お前らの家族構成など知らないのである!」

「ええ。私もあなたのご家族は知りません。旦那さんいくつですか?」
「何を言っているのであるか! もういい、拒否するのであるな!」
「そんなに大声出さないで下さい。せっかく子供が寝たんですから。」

管制室の一同は、必死に腹を押さえて笑いをこらえている。こらえながらゼルタが両手を上げ、マルを作ってラオに示した。
「--ではお姉ちゃん方、ごめんなさい。」
93決戦 (7)/豊かな島

ラオは通信を切ってしまう。マスドライバーからは、石を詰めたタマがどんどん放り投げられている。向かう先は、威嚇のため整然と並んだ帝国艦隊。幾何学や流体力学の教科書挿絵のように、3次元に等間隔を保って浮かんでいる。

こしゃくな、と撃破を命じる上級大将ドノ。

だが指揮下の艦長たちは慌てた。過去、大気中の旅客機は、速いものでも秒速340m程度で飛んだ。それでも150m以内に近付けば事故扱いされた。比較にならぬほど速度の速い星間船なら、隣が目視できればもはや事故だろう。

しかも無重力で、一度動いたら止まらない。電脳制御のスラスタで、止めたり曲がったりしているが、それで防げる衝突は、せいぜい一対一。約800×800の衝突回避など、とても手に負える演算ではない。冷や汗と共に発砲する各艦。

1個2個は撃破できた。だが中身が飛んできた。撃ち漏らしたのも飛んでくる。新たなタマもどんどんと。それも繋がったままブン回っている。凶暴な事に、隊列に近付くと滅茶苦茶な動きを始めた。「うわわわ。」逃げ惑うに惑えない帝国艦隊。

もはや攻めるどころの騒ぎではない。

思いの外のんびり帝国軍が攻めてきたおかげで、セレスはガマのタマだけでなく、ただの岩のかたまりも用意できた。リニアラインの工事跡には、ごっそりと岩やら石やら氷やらがが積み上がっていた。それらがマスドライバーの腕に付けられ。

「「「そーれ!」」」とインテグラたちのかけ声に送られ、帝国軍めがけ飛んでいく。不真面目ないたずらに見えるが、まじめは愛嬌がないと心の余裕を失う。心がカチカチになっていては、見えるものも見えないし、出来るはずの事も出来ない。
93決戦 (8)

物理的に力がない者は、まじめを誇示してハッタリを掛ける。互いにハッタリ掛け合う組織や社会は、ナントカの集まりになりかねない。だから見切ってしまえば、それもお笑い。心理学や武道の教科書通りに、帝国軍は自分から負けに来た。

「無惨ね、ナントカって。」あるインテグラがつぶやいた。

御礼


ハム拝借:
http://www.irasutoya.com/
http://free-illustrations.gatag.net/


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