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SF『クワント(КВАНТ)』


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◎  10.合流編/94.詐術 

 

「あ、逃げてる逃げてる。」「おーいそっち行くなよー。ぶつかるよー。」

にわか雨の蟻の巣を観察するように、スクリーンに見入るセレス管制室の一同。
「じゃカーラ、トキア、頼むよ?」とラオに言われ、戦闘AI二人がクワントだけで宇宙に飛び出す。見つからぬよう発光を抑え、電磁波探知で特定した旗艦へ。
94詐術 (1)

だが特定の必要はなかったようだ。旗艦だけ白く塗られている。本当に病気だなとカーラは思う。大混乱に、二人に気付く者はない。トキアと共に閉め忘れの舷窓ガラスを透過して中に飛び込む。恐怖に漏らしそうな顔の旗艦乗員が二人いた。

こっそり近付き、義体を乗っ取る。カーラもトキアも演算力は高く容易。カーラが警戒に当たり、トキアは艦内ネットに侵入。乗っ取ったのは下級水兵のようで、あまりアクセス権限がない。それでも艦橋の位置などを調べ終える。

義体をお休みモードにして解放する。次いで艦橋に入れそうな士官を乗っ取る。

カーラはガタイのいい義体を選ぶ。大女も、総身に知恵が回りかねたと見え、あっさり乗っ取られる。二人は武器庫から手頃な武器をかっぱらい、そのまま艦橋に乗り込んだ。「観念しろやあ!」とカーラが大声で威嚇、発煙筒に火を付ける。

ぼんぼん放り込んで視界を遮る。「うわあ!」「ひゃあ!」と艦橋は灰神楽になる。「なななな何者であるか!」と慌てた上級大将ドノにトキアが近付く。こん、と手刀を当てて義体の機能を止め、クリスタルを引きちぎって放り捨てる。

即座にクワント一つになると、額から侵入して上級大将ドノのクワントを、義体から蹴り出す。たまらず逃げようとした所を、狙撃でコンソールを滅茶苦茶にしていたカーラが捕らえる。目撃した一人の帝国士官が、もったいぶった態度で言う。
94詐術 (2)

「司令官閣下はめ…。」バグワッ!

名誉を重んじるかた、と言いかけて、カーラにあごを砕かれる。「はひほへ…。」
「下の句は“迷惑な奴”だ、間抜け。お前の田舎芝居に付き合ってられるか。」
その間トキアは艦橋を飛び回り、エンジンの制御盤に取り付く。

「あああああ、それは出力レバーですよう。」怯えた機関員。
「ありがとう、いい事を教えてもらった。」
ハッキングして勝手に出力を上げ、制御受け付け不可状態にする。

次いで舵輪に取り付きおもかじ一杯。これも勝手に固定する。艦はぐるぐる回り出す。すさまじい急加速に、額からクワントがまけ出そうになる帝国将兵。その前にカーラは義体を捨て、上級大将ドノを連れたまま、トキアと共に窓から逃走。

置き土産の時限爆弾が破裂。旗艦は全員、クワント化を余儀なくされる。

他の艦は右往左往。旗艦がやられて統制が取れなくなり、逃げ出す艦も出始める。一方セレスに拉致られた上級大将ドノは情報を吸い取られ、鉛球なまりだまに詰められレールガン衛星に送られる。なるべく真っ暗闇の座標を選んで、最大出力で射出された。

「人間クワントでしたねー。」「男だったものねー。」
見送るインテグラたち。上級大将ドノはネカマだったようだ。命を取られはしなかったが、ラオが仕掛けたカギが外れるまで、延々と宇宙を漂う事になる。

暗闇=銀河系の外に放り出された。帝国の本星はたぶん、セレスには無論戻って来れようはずは無い。一方帝国軍もさるもの、指揮を引き継いで攻撃しようとする者も居た。おのれ、とセレスを見やれば、その表面にソピアが描いた幾何学模様が。
94詐術 (3)

チェレンコフ光を発している。「て…天体砲か!」

慌てて逃げ散る帝国軍。それもぶつかったりタマに当たったりで数が減ったし、逃げる方は整然と、とはいかない。その後ろをさらに、空飛ぶかき回し球が追う。ぶつかりひしゃげる艦が増加した。クワント一つで逃げ出す帝国軍。

空間転移を図る艦もある。だが太陽重力が強くて失敗。通常機関で逃げにかかる。
「だいたい、帰ってくれたね。」とラオ。
「急いだ方がいいかも知れません、ベテルギウス砲。」とアルファー。

設備はまだ完成していなかった。ただ工事現場から光を出しただけ。落ち着いて観察すれば分かるものを、浮き足だったエゴにはそれが分からない。先の先を取る武道の応用。相手は打撃で負けるその前に、自分の心に、負けてしまう。

「ま、いいハッタリには、なったよ。」

***

帝国軍は大損害。逃げおおせた艦は10隻ほどしかない。

他は壊れたり、投降したり。
「意外に意気地がありませんねえ。」とアルファー。
「負けちゃったからね。帰るに帰れないんだろう。」とラオ。
94詐術 (8)

クワントだけで逃げた者も、運命は過酷。混乱でクリスタルを失った者が多く、素クワントで光速以上を出せるのは、よほど知性が高い者だけ。だが早めに投降した者は、まだ運が良かった。「武人のタマシイ!」とか言って力んでいた者は。

我らも混ぜろと乗り出した、タフィ以下のアイボレク隊に捕まった。「面倒くさいから」と言ってタフィは、情報だけ抜き取るとさっさと鉛球に詰め、やはり暗闇を狙って放り出す。ご丁寧にそれを帝国語で、今日は何人射出した、と放送する。

怯えた帝国の残党が、降れば殺さないと宣言したセレスを目指す。

ここでも素直に投降した者は、捕虜として扱われたが、数名の者がインテグラの乗っ取りを謀った。ラオは事前に高容量の情報素子を配り、インテグラたちに記憶のミラーリングを徹底させていた。これがクワントにないインテグラの利点。

乗っ取られても、記憶さえあれば自我が復元できる。多少のリハビリは必要になるが。こうして用心していても、ついに乗っ取られたインテグラが出た。カーラとトキア、そしてイチゴ船団の一同が、そうしたインテグラをやさしく締め上げる。

義体からたたき出された帝国クワントを、ラオはものも言わずにリアクターの炉心に放り込んだ。重粒子に打ちのめされて、クワントが消滅する。さすがにトキアも文句は言わない。義体はレナが丁寧に修理し、記憶を戻してリハビリに入る。
94詐術 (4)/豊かな島

こうして捕虜が1000人ほど、鹵獲ろかく艦が300隻ほど出た。

帝国軍の船は多かったが、人は意外に少ない。「一番コストがかかるんだよ、人って」とラオが言う。旗艦には100名ほど乗っていたようだが、その他の艦は10名以下だったらしい。捕虜は義体のあるもなしも、まずは裸のクワントにされて。

鉛球に詰められて、最低限の電力だけ与えられる。捕虜たちにラオは、反省文を書く事を要求した。反省した者は解放し、望むならセレスに受け入れてもいいと言った。そうでないならずっと反省してて貰うか、二度と戻れないよう放り出すと。

ある者が流麗な文章で、美辞麗句を書き連ねた反省文を提出した。ラオはすぐさま鉛球をレールガンで射出し、「こういうのはこうするよ」と、捕虜たちにその文を公開する。「45億年ほどしたら、鉛が割れるようにはしてあげるけどね」と。

一方、まだ「タマシイ…。」を言う者も居た。

「収容所に戻る? それとも出てく?」と聞くラオ。出て行くと言った者はごく少数。望み通りに射出してやる。その他大勢、戻りたがりを戻してやる。
「文章で反省したかどうか、わかるんですか?」とソピア。

「おや意外だね、文章達者のソピアが、そんな事言うなんて。」
「ええと、よくわかりませんが。」
「いいかいソピア?」

「--人は意外に、文章でウソはつけない。美辞麗句をどんなに書き連ねようとも、書けば書くほどウソがばれる。だって要らない修飾語を使うからには、私は本心をごまかしています、あなたを騙して利用します、という宣言だから。」
94詐術 (5)

「あー。」

「情報戦のイロハだよ。捕虜をいじめてはいけないけど、ウソツキの危険人物テロリストを受け入れる余裕は、セレスにはない。そのことは捕虜たちにも伝えてある。」
「そうですね。…でもアイボレクの時と、ずいぶん対応が違いますね。」

「うん。タフィさんが族長として人がまともだから、その下にいたオウラルたちは、大丈夫だと思ったんだ。タフィさんたちは武力もあるのに、自分から襲いかかるような事をずっと控えていた。でも今回の帝国はどうだろう?」

「そうですね。でも、変化を恐れるな、と先生は言いませんでしたか?」
「言ったよ。でもそれは、どうしようもない変化に応じて、最適解を得るため。とてつもなく難しいけど、少なくとも最悪解を選ばないことは出来るよ。」

「いま先生がしているのが、最適解?」

「それは私にも分からない。だけどセレスのみんなが、生き延びられないような事はしていないと思う。」
「怒って帝国軍が、また攻めてきたら?」

「多分それは、ないんじゃないかな。」
「どうして?」
「ソピア。クワントだろうと、人が扱えるエネルギー量には限界がある。」

「--多分帝国は今回の敗戦で、政体が変わるほどの打撃を受けたと思う。上級大将とか言ってたから、その上に帝国元帥とか居て、別の艦隊もあるんだろうけど、あれほどの数を簡単に再建し、空間転移できるとは思えない。少なくとも…。」

「人が、もう居ないでしょうね。」

「その通り。帝国はずいぶん人口が多いようだけど、アイボレクの先代族長のように、人間一人が産み出せる人格AIは、800人が限界だよ。DNA型人間として増えるなら、もっと数は少ない。まあ増やせるだろうけど、時間がかかる。」

「倍々ゲームなら、あっという間では?」
「DNA型人間がどんなに増えても、クワント化し、船員が務まるまで教育し、おまけに武技も身に付けなきゃいけないんだよ? 誰でも出来る仕事じゃ、ない。」
94詐術 (6)

「あー。」
「船もそうさ。空間転移できるほどの船を造れるような、設計者も職人もそう簡単には、育たない。ロボットにさせようとしても、今度はロボットを造る人は?」

「でも先生や博士や、船長さんのような人がいたら?」

「私らのような者が、帝国なんてお笑い国家に、いつまでも居ると思う?」
「そっか。博士がそうでしたもんね。」
「うん。勢力拡大なんてなんにもならない。みんなの迷惑でしかない。」

「でも過去、独裁国家に天才科学者が居た例は、ありますよ?」
「それはそうだね。だけど事実をありのままに見ようとしない社会に、技術は育たない。一時的には突出できてもね。一旦壊滅すれば、それでおしまい。」

「でもね先生。」と言うソピアの頭を、そっとラオは撫でてやる。
「--あの帝国が壊滅しても、ほかの帝国がまた出てくるのでは?」
「その通りだね、ソピア。だから。」とラオ。

「--備えることに、しようじゃないか。」

後書き


終戦を喜ぶインテグラたち。
Домойダモイ с победеパビェージェ!(勝ったぞ! さあおうちへ帰ろう!)
94詐術 (7)

御礼


ありがとうございました。私はあなたを忘れません。
工事ヘルメット拝借:
キャベツ鉢
ヨルムンガンド級輸送艦拝借:
チョポン


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